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死者の街を歩く——イタリアの墓地が美術館である理由

イタリアの墓地(cimitero)は彫刻と建築の宝庫だ。ジェノヴァのスタリエーノ墓地、ミラノの記念墓地、ローマのヴェラーノ——死者を弔う文化が生んだ芸術空間を歩く。

2026-05-12
文化歴史建築芸術宗教

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ジェノヴァのCimitero Monumentale di Staglieno(スタリエーノ記念墓地)に入ると、通路の両側に実物大の大理石彫刻が並んでいる。泣き崩れる女性、花束を抱えた天使、眠るように横たわる子供。マーク・トウェインは1869年にここを訪れ、「彫刻の質においてヨーロッパのどの墓地よりも優れている」と書いた。

イタリアの墓地は「死者を埋める場所」ではない。「死者を展示する場所」だ。

なぜ墓地が美術館になったのか

19世紀のイタリアでは、裕福な家族が競うように墓碑に芸術作品を注文した。リソルジメント(イタリア統一運動)の時代、新興ブルジョワジーにとって、豪華な墓碑は社会的地位の証だった。

ミラノのCimitero Monumentale(記念墓地)は1866年に開設された。入口のファメディオ(Famedio、名誉霊廟)は新古典様式とゴシック様式が混在する建築で、アレッサンドロ・マンゾーニ(『いいなずけ』の著者)の墓がある。

ローマのCimitero del Verano(ヴェラーノ墓地)にはイタリア統一後の政治家、芸術家、科学者が眠る。83ヘクタールの敷地に、新古典主義からアール・ヌーヴォーまで、150年分の建築様式が共存している。

墓のかたち

イタリアの墓は日本の墓石とは根本的に異なる。

Loculo(壁面墓): 壁に棺を収める引き出し式の墓。都市部の墓地では最も一般的。大理石の蓋に名前、生没年、写真(ceramica fotografica)が埋め込まれる。複数段に積み上げられ、墓地の壁面がギャラリーのようになる。

Tomba a terra(地面墓): 地面に設置する墓。日本の墓石に近いが、はるかに装飾的。大理石の台座に彫刻が載っている。

Cappella(家族礼拝堂): 裕福な家族が建てるミニチュアの教会。内部にステンドグラス、フレスコ画、大理石の祭壇がある。メンテナンス費用は年間€500〜2,000(約80,000〜320,000円)。

Ossario(納骨堂): 土葬から一定期間(通常10〜30年)経過後、遺骨を取り出して納骨堂に移す。イタリアでは土地の制約から、墓地の「回転率」を上げるためにこの制度がある。

花と写真——墓地の日常

イタリアの墓地には生花が絶えない。毎週、あるいは数日おきに家族が花を持って訪れる。特に多いのは:

11月1日の万聖節(Ognissanti)と翌日の死者の日(Giorno dei Morti)は墓地が最も混雑する。命日・誕生日・日曜のミサ後にも花を供える。墓地入口には必ず花屋がある。注意すべきは、菊(crisantemo)がイタリアでは死者への花だということ。生きている人に贈ると大変な失礼にあたる。

もう一つの特徴がceramica fotografica(陶磁器写真)だ。故人の写真を楕円形の陶板に焼き付け、墓碑に埋め込む。墓地を歩くと、何十年も前の白黒写真から最近のカラー写真まで、無数の顔がこちらを見つめている。

火葬の急増

カトリック教会は1963年まで火葬を禁止していた。その影響で、イタリアの火葬率は長く低かったが、近年急増している。

2000年の火葬率は約5%だったが、2023年には約33%に達した(SEFIT-Utilitalia)。北部(ミラノ、トリノ)では50%を超える地域もある。理由は宗教観の変化に加え、墓地の土地不足と費用の問題が大きい。

土葬の費用は€3,000〜8,000(約48万〜128万円)。火葬は€1,500〜3,000(約24万〜48万円)。この差額は決して小さくない。

在住外国人が墓地を訪れる

イタリアの記念墓地は正式な観光スポットだ。入場無料の場所がほとんどで、ガイドツアーもある。

Staglieno(ジェノヴァ)、Cimitero Monumentale(ミラノ)、Cimitero Acattolico(ローマ、キーツとシェリーの墓)、San Michele(ヴェネツィア、ストラヴィンスキーの墓)——いずれも入場無料(一部寄付制)でガイドツアーもある。

死者と生者の距離が近い。それがイタリアの墓地を歩いたときの印象だ。散歩のついでに立ち寄り、知り合いの墓に花を置いて帰る。死が日常から隔離されていない社会の風景がそこにある。

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