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イタリア映画とネオレアリズモ——廃墟で撮った映画が世界を変えた

第二次大戦直後、スタジオもフィルムも足りないイタリアの映画人は街に出てカメラを回した。ロッセリーニ、デ・シーカ、フェリーニ。廃墟から生まれたネオレアリズモは、ハリウッドとは真逆のやり方で映画の歴史を書き換えた。その遺伝子は今のイタリア映画にも息づいている。

2026-05-06
映画ネオレアリズモフェリーニローマ文化

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1945年、ローマのチネチッタ撮影所は連合軍の爆撃で半壊し、避難民の収容施設になっていた。セットもライトもフィルムも足りない。映画監督ロベルト・ロッセリーニは、壊れた街そのものをスタジオにした。素人を俳優として起用し、ドキュメンタリーのように物語を撮る。1945年公開の『無防備都市』は、のちに「ネオレアリズモ(Neorealismo)」と呼ばれる運動の出発点になった。

廃墟が映画を変えた

ネオレアリズモの特徴は明快だ。ロケ撮影。素人俳優。労働者や貧困層の日常。ハッピーエンドの拒否。ハリウッドが巨大スタジオで夢を売っていた同時代に、イタリアの映画人は現実をそのまま切り取る方法を選んだ。

ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』(1948年)は、盗まれた自転車を探す父子の1日を追うだけの映画だ。自転車がなければ仕事を失う。仕事を失えば家族が食べていけない。それだけの話なのに、ローマの街路を歩く父子の背中が、戦後イタリアの絶望と尊厳を同時に映し出す。主演のランベルト・マジョラーニは本物の工場労働者で、演技経験はゼロだった。

フェリーニ——ネオレアリズモからの離陸

フェデリコ・フェリーニはネオレアリズモの弟子として映画を始め、そこから大きく逸脱した映画作家だ。初期の『道』(1954年)にはまだネオレアリズモの影が色濃いが、『甘い生活(La Dolce Vita)』(1960年)で転換が起きる。ローマのヴィア・ヴェネト通りを舞台に、退廃的な上流社会を描いたこの作品は、現実の記録ではなく「現実の感触を持った幻想」だった。

『甘い生活』はもう一つ、映画の外にも影響を残した。劇中のカメラマン「パパラッツォ」の名前が、有名人を追い回す写真家を指す「パパラッチ(Paparazzi)」の語源になっている。

イタリア映画の今

2000年代以降のイタリア映画は、ネオレアリズモの遺伝子を受け継ぎながら新しい領域を開拓している。

パオロ・ソレンティーノの『グレート・ビューティー/追憶のローマ(La Grande Bellezza)』(2013年)は、老いたジャーナリストの目を通してローマの美と虚無を描き、アカデミー外国語映画賞を受賞した。フェリーニの『甘い生活』への明確なオマージュでありながら、21世紀のローマの空気を捉えている。

マッテオ・ガローネの『ゴモラ』(2008年)は、ナポリのカモッラ(犯罪組織)の日常をドキュメンタリー的タッチで撮った。素人俳優、ロケ撮影、社会の底辺——手法はネオレアリズモそのものだ。

イタリアで映画を観る

在住者にとってイタリアの映画館は独特の体験になる。まず、外国映画はほぼ全てイタリア語吹替版で上映される。字幕版(versione originale, V.O.)を見つけるのは大都市でも一苦労だ。ローマなら「Cinema Nuovo Olimpia」、ミラノなら「Anteo Palazzo del Cinema」が字幕上映の常連館として知られている。

チケットは通常€8〜€12(約1,280〜1,920円)。毎週水曜日が割引日(€5〜€6、約800〜960円)になる映画館が多い。

夏にはもう一つの選択肢がある。「Cinema all'aperto(野外映画)」だ。6月から9月にかけて、ローマのティベリーナ島やフィレンツェのサンタ・クローチェ広場など、各都市の広場や公園が野外映画館に変わる。チケットは€5〜€8(約800〜1,280円)程度。ビールやワインを片手に、夜風の中で映画を観る。イタリアの夏の夜の過ごし方としては、これ以上のものはなかなかない。

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