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ウルトラスの世界——イタリアのサッカー応援文化はなぜ過激になったか

イタリアのサッカー場には「クルヴァ」と呼ばれる応援席がある。ウルトラス(熱狂的サポーター集団)の歴史、組織構造、そして在住外国人が知っておくべきスタジアム文化を解説する。

2026-05-09
文化サッカーウルトラスセリエAスポーツ

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イタリアのサッカーリーグ、セリエAの年間観客動員数は約1,100万人(2023-24シーズン、Lega Serie A)。その雰囲気を決定づけているのが「ウルトラス(ultras)」——組織化された熱狂的サポーター集団だ。

ウルトラスとは何か

ウルトラスは1960年代後半にイタリアで生まれた。1968年のミラノのACミランの「Fossa dei Leoni」が最初期のウルトラスグループとされ、以後、各クラブに独自のウルトラス組織が形成された。

ウルトラスは単なるファンクラブではない。独自のリーダー(capo)がおり、応援の振り付け・横断幕(striscione)・発煙筒(fumogeno)・太鼓のリズムを統制する。試合中の応援は90分間途切れない。立ちっぱなしで歌い、飛び跳ね、旗を振り続ける。

クルヴァの位置づけ

イタリアのスタジアムには「curva(クルヴァ)」と呼ばれるゴール裏の席がある。ここがウルトラスの本拠地だ。クルヴァのチケットは最も安い(€15〜40、約2,400〜6,400円)が、最も「参加型」の体験ができる。

クルヴァに初めて行く在住外国人は、その音量と圧力に驚く。90分間、周囲の全員が同じ歌を歌い、同じタイミングで手を振り上げ、ゴールが入ると見知らぬ隣人と抱き合う。

ただし、クルヴァにはウルトラスの暗黙のルールがある。座席に座らない(立って応援する)、写真を大量に撮らない、応援に参加する——これらを守らないと冷たい目で見られることがある。

政治とウルトラス

イタリアのウルトラスは政治的な色を帯びることが多い。

  • ラツィオのIrriducibili: 右翼的な傾向で知られる。試合中にナチスの敬礼が問題になったことがある
  • リヴォルノのBAL: 左翼的。アンチファシズムを掲げる
  • ASローマのCurva Sud: 右翼系グループが複数活動

全てのウルトラスが政治的というわけではないが、イタリアのスタジアム文化と政治は歴史的に絡み合っている。

暴力と規制

ウルトラスの暴力は長年の問題だ。2007年にはカターニャでの試合で警察官が死亡する事件が起き、セリエAが数週間中断された。以降、イタリア政府は「DASPO(スタジアム出入り禁止命令)」を強化し、身分証の提示義務、発煙筒の持ち込み禁止、ビジター席の制限などを導入した。

現在のセリエAのスタジアムは、2000年代と比べて安全になっている。ただし、ダービー(同都市のクラブ同士の対戦)の日は緊張が高まるため、在住外国人が初めてスタジアムに行く場合はダービー以外の試合を選ぶのが無難だ。

チケットの買い方

セリエAのチケットは各クラブの公式サイトまたはVivaticket、Ticketoneで購入できる。

  • クルヴァ(ゴール裏): €15〜40(約2,400〜6,400円)
  • ディストインティ(サイドスタンド下段): €30〜60(約4,800〜9,600円)
  • トリブーナ(メインスタンド): €50〜200(約8,000〜32,000円)
  • ユヴェントス戦・ミラノダービー等の人気試合: €80〜300(約12,800〜48,000円)

イタリアのスタジアムでサッカーを観ると、テレビで見るセリエAとはまったく別のものだとわかる。ウルトラスの歌声が響くクルヴァの空気は、好き嫌いは別として、イタリア文化の一面を凝縮している。

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