バールで新聞を読む国——イタリアの新聞文化と朝の儀式
イタリアの新聞発行部数は減少を続けているが、バールのカウンターで新聞を広げる朝の風景は消えていない。紙の新聞がまだ生きているイタリアの事情を解説する。
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イタリアの主要日刊紙の発行部数は、Corriere della Sera(コリエーレ・デラ・セラ)が約20万部、La Repubblica(ラ・レプッブリカ)が約13万部(2023年、ADS認証)。10年前の半分以下に減った。それでも、朝のバールには新聞を広げる人がいる。
バールと新聞のセット
イタリアの朝はバールで始まる。エスプレッソ(€1〜1.5、約160〜240円)とコルネット(クロワッサン、€1〜1.5)を注文し、カウンターに立って新聞を読む。所要時間は10〜15分。この「朝の儀式」はイタリア文化の基本構造の一部だ。
多くのバールには常連客用の新聞が1〜2部置いてある。店主が毎朝edicola(新聞スタンド)から買ってきて、カウンターに置く。常連客は自分で新聞を買わず、バールで読む。新聞1部の価格は€1.5〜2.0(約240〜320円)だが、バールで読めばエスプレッソ代だけで済む。
イタリアの主要紙と政治的立ち位置
イタリアの新聞は政治的立場が明確で、どの新聞を読んでいるかでその人の政治的志向が推測できる。
- Corriere della Sera: 中道リベラル。ミラノ拠点。イタリアの「朝日新聞」的存在
- La Repubblica: 中道左派。ローマ拠点。知識人層に読まれる
- Il Sole 24 Ore: 経済紙。コンフィンドゥストリア(イタリア経営者連盟)系
- La Stampa: 中道。トリノ拠点。旧フィアット(現ステランティス)系
- Il Fatto Quotidiano: 反体制的。五つ星運動に近いとされる
- Gazzetta dello Sport: スポーツ紙。ピンク色の紙面が特徴。サッカーのセリエA情報が中心
スポーツ紙のGazzetta dello Sportは発行部数約15万部で、一般紙に匹敵する。月曜日(週末の試合結果が載る)はバールでGazzettaの争奪戦が起きる。
Edicola(新聞スタンド)の衰退
イタリアの街角にあるedicola(キオスク型の新聞スタンド)は2000年には約4万軒あったが、2023年には約1.2万軒まで減少した。新聞の売上が減り、edicolaは雑誌・お菓子・SIMカード・バス切符の販売で生き残っている。
ローマやミラノの中心部ではedicolaが観光客向けのお土産屋に転業するケースも増えている。かつてイタリアの街の風景を作っていたedicolaの緑色の屋根が、少しずつ消えている。
デジタル移行の遅さ
イタリアの新聞のデジタル版購読者数は伸びているが、ヨーロッパの他国と比べるとデジタル化のペースは遅い。Reuters Institute Digital News Report(2023年)によると、イタリアのオンラインニュースへの有料課金率は約11%で、北欧諸国(20〜30%)を大きく下回る。
理由の一つは、イタリアのインターネットリテラシーとデジタルインフラの問題だ。65歳以上のインターネット利用率はEU平均を下回っており、高齢者を中心に紙の新聞への愛着が根強い。
在住外国人がイタリアの政治や社会を理解するのに、新聞は今でも有効なツールだ。バールで隣のおじさんが広げているCorriere della Seraの見出しを覗き込むところから、イタリアの朝が始まる。