Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
医療

緑の十字架の裏側——イタリアの薬局が医療の最前線である理由

イタリアの薬局(farmacia)は約19,000軒。処方箋なしで買える薬の範囲が広く、薬剤師が簡易的な健康相談にも応じる。日本とは異なるイタリアの薬局文化を解説する。

2026-05-12
医療薬局健康生活文化

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

イタリアの街角で最も目につく看板の一つが、緑色の十字架(croce verde)だ。薬局(farmacia)の看板である。イタリア全土に約19,000軒(Federfarma、2023年)の薬局があり、住民約3,100人に1軒の割合で存在する。コンビニのない国で、薬局がその代わりを果たしている。

薬局でできること

イタリアの薬局は、日本の薬局・ドラッグストアよりもはるかに広い役割を担っている。

処方箋なしで買える薬(farmaco da banco / OTC):

  • 解熱鎮痛剤(Tachipirina = パラセタモール、Moment = イブプロフェン)
  • 胃腸薬(Maalox、Gaviscon)
  • 抗アレルギー薬(Zirtec = セチリジン)
  • 風邪薬、咳止め、のど飴
  • 目薬、外用消炎剤
  • 一部の抗生物質軟膏

処方箋が必要な薬(farmaco con ricetta):

  • 抗生物質(経口)
  • 降圧剤、糖尿病薬
  • 精神科薬
  • ホルモン剤

薬局では血圧測定(無料〜€3)、血糖値測定(€3〜5、約480〜800円)、コレステロール値測定(€5〜10)、ワクチン接種(一部薬局)も可能。薬剤師(farmacista)は5年間の大学教育を受けた医療専門職で、軽い症状ならかかりつけ医の前に薬局で相談するのがイタリアの一般的な行動パターンだ。

価格の仕組み

イタリアの医薬品には3つの価格カテゴリがある。

Classe A(必須医薬品): SSN(国民保健サービス)が全額負担。患者の自己負担はゼロまたは定額(€1〜3程度のticket)。慢性疾患の薬の多くがここに分類される。

Classe C(処方箋必要・自己負担): SSNの補助なし。全額自己負担だが、処方箋が必要。

OTC / SOP(市販薬): 処方箋不要。全額自己負担。

Classe Aの薬を処方箋付きで購入する場合、ほぼ無料だ。ジェネリック(farmaco equivalente / generico)を選べば、さらにコストが下がる。イタリアのジェネリック普及率は約30%で、欧州平均(約50%)より低いが、薬剤師がジェネリックへの変更を提案してくれることが多い。

Farmacia di turno——深夜の薬局

イタリアでは、エリアごとに24時間営業の当番薬局(farmacia di turno)が設定されている。当番制は輪番で、どの薬局の当番日かは以下の方法で確認できる。

閉まっている薬局のドアに最寄りの当番薬局の名前と住所が掲示されている。「Farmacia di turno」で検索するとGPS連動アプリもある。深夜の当番薬局ではシャッターの小窓越しに薬剤師が対応し、深夜追加料金€3.62(約579円)が加算される。

外国人が知っておくべきこと

Tessera Sanitaria(健康保険カード): SSNに加入している場合、Tessera Sanitariaを薬局で提示するとClasse Aの薬が無料または低額で購入できる。カードにはCodice Fiscaleが記載されている。

処方箋の種類: イタリアの処方箋はricetta bianca(白い処方箋、自費)とricetta rossa(赤い処方箋、SSN負担)の2種類がある。かかりつけ医がSSN加入者に出すのは通常ricetta rossa。

日本の薬の代替品: 日本から持ち込んだ常備薬がなくなった場合、薬剤師に有効成分名(generic name)を伝えれば同等品を探してくれる。例えばロキソニン(loxoprofen)はイタリアにはないが、同系統のibuprofen(Moment、Brufen)やnaproxen(Momendol)で代替可能。

なお「parafarmacia」は処方箋不要の市販薬やサプリのみ扱う別業態で、farmacia(緑の十字架)とは異なる。ちょっとした体調不良なら、医者の予約を取って数日待つより、近所の薬局で薬剤師に相談する方が早い。緑の十字架は、この国では安心のサインだ。

コメント

読み込み中...