イタリアの迷信文化——マロッキオ・数字17・紫の禁忌
合理的な現代社会に生きるイタリア人が、なぜ角型のお守り(コルノ)を持ち歩くのか。マロッキオ(邪視)、不吉な数字17、紫色のタブー。イタリアの迷信文化は冗談半分でありながら、社会の深層に根を張っている。
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ナポリの土産物屋に並ぶ赤い角型のお守り「コルノ(Corno)」。唐辛子のような形をしたこの護符は、邪視(マロッキオ、Malocchio)を防ぐためのものだ。観光客向けのキッチュなお土産に見えるが、イタリア人の中にはこれを真剣に——あるいは「真剣に冗談半分で」——身につけている人がいる。
マロッキオ(邪視)
マロッキオは「悪意のある視線」によって相手に不幸をもたらすという信仰だ。嫉妬や羨望の目で見られると、頭痛・倦怠感・不運が訪れるとされる。地中海文化圏(ギリシャ、トルコ、北アフリカ等)に広く分布する信仰だが、イタリア南部——特にナポリ、カラブリア、シチリア——では今も日常の中に存在する。
「マロッキオを受けた」と感じた場合の解除法(対抗呪術)もある。水にオリーブオイルを数滴落とし、油の広がり方で邪視の有無を判定する。油が広がれば邪視あり、丸いままなら問題なし。この儀式を行うのは通常、年配の女性(nonna、祖母)だ。
不吉な数字17
西洋では「13」が不吉とされるが、イタリアでは「17」が嫌われる。理由はローマ数字の XVII をアナグラムにすると VIXI(「私は生きた」=「私は死んだ」の完了形)になるから、という説が有力だ。
ホテルやマンションに「17号室」「17階」がない建物は実際にある。アリタリア航空(現ITA Airways)にはかつて17列の座席がなかった。金曜日と17日が重なる「Venerdì 17(金曜17日)」は、イタリア版のジェイソンの金曜13日だ。
紫色のタブー
イタリアの劇場やテレビ局では紫色(Viola)を避ける慣習がある。舞台衣装に紫を使わない、テレビの生放送で紫の服を着ない。起源は中世の四旬節にある。四旬節の期間中(約40日間)は演劇が禁止され、俳優は収入を失った。四旬節の典礼色が紫であったことから、紫=仕事がない=不吉、という連想が生まれたとされる。
日常生活では紫色のタブーはそれほど強くないが、年配のイタリア人に紫の花を贈ると微妙な顔をされることはある。
その他の迷信
テーブルの上の帽子: テーブルに帽子を置くのは不吉。終油の秘跡(臨終の聖式)で司祭が帽子をベッドサイドのテーブルに置くことから、死を連想させるため。
こぼした塩: 塩をこぼしたら、左肩の後ろに一つまみの塩を投げる。悪霊は左肩に座るとされるため。
黒猫: 黒猫が目の前を横切ると不吉。ただし現代のイタリアでは黒猫の保護活動が盛んで、11月17日は「黒猫の日(Giornata del gatto nero)」として黒猫への偏見をなくすキャンペーンが行われている。
在住者として知っておくと便利なこと
これらの迷信を「信じている」イタリア人は少数派だ。だが「念のため避ける」人は多い。日本人が「北枕を避ける」「4の数字を気にする」のと似た感覚だろう。
イタリア人との会話で迷信の話題が出ると、笑い話として盛り上がることが多い。「日本では4が不吉で、ホテルに4号室がないことがある」と言うと、「イタリアの17と同じだ」と共感が返ってくる。迷信は文化を超えた共通言語になりうる。