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イタリアのマンション総会は深夜まで続く:コンドミニオ会議という民主主義の実験場

マンションの管理組合(Condominio)の総会は、イタリア社会の縮図。議論好きな住人たちが階段の照明から犬の鳴き声まで、あらゆる問題を夜通し議論する。

2026-05-15
コンドミニオマンション管理組合総会住居

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イタリアのマンションに住み始めて最初の冬、管理組合(Condominio)の定期総会(Assemblea Ordinaria)の案内が届いた。議題は暖房費の配分。20時開始で、終わったのは23時半だった。

イタリアのコンドミニオ総会は、日本のマンション理事会とは別の生き物だ。

コンドミニオとは何か

イタリアの集合住宅(Condominio)には、区分所有法(Codice Civile 1117条〜1139条)に基づく管理組合が義務付けられている。住人が8人以上の建物では、Amministratore(管理者)の選任が必須だ。

管理者は住人の中から選ぶこともできるが、多くの場合は外部の専門管理者(プロのAmministratore)に委託する。費用はマンションの規模によるが、小規模(10〜20世帯)で年間1,500〜3,000EUR(約240,000〜480,000円)。この費用は各世帯のMillesimi(持ち分)に応じて按分される。

Millesimiという概念

Millesimiは建物全体を1,000として、各世帯に割り当てられた持ち分の数値だ。面積・階数・日当たり・眺望などを総合的に評価して決められる。

広い最上階の部屋は高いMillesimi値を持ち、地下の小さな部屋は低い値になる。共用部分の維持費(清掃、照明、エレベーター、暖房など)はMillesimiに基づいて各世帯に配分される。

このMillesimiの計算をめぐって揉めるのが、コンドミニオの定番トラブルだ。「うちはエレベーターを使わないのに、なぜ修理費を払うのか」(1階住人)vs「エレベーターがあるから建物の資産価値が維持されている」(上階住人)。この議論は永遠に決着しない。

総会の風景

定期総会は通常、年に1回。臨時総会は必要に応じて開催される。

総会の案内は最低5日前に全世帯に書留郵便で送付する必要がある(5日前を切ると決議が無効になる)。議題(Ordine del Giorno)が記載されており、議題にないことは決議できない。

総会当日の典型的な流れはこうなる。

  1. 管理者が前年度の決算報告をする(15分)
  2. 住人からの質問が始まる(ここから無限に伸びる)
  3. 各議題について議論→採決
  4. 「その他」の議題で、誰かが「隣の犬がうるさい」と言い出す
  5. 全員が自分の意見を述べ始める
  6. 管理者が議事録をまとめようとするが、追加の議論が発生する

イタリア人は議論が好きだ。全員が自分の主張を持ち、それを完全に表明するまで譲らない。結果として、3つの議題に3時間かかることは普通だ。

暖房費の問題

イタリアの多くのマンションは集中暖房(Riscaldamento Centralizzato)を使っている。建物全体を1つのボイラーで暖める仕組みで、暖房費は全世帯で分担する。

2014年の法改正で、各世帯に熱量計(Contabilizzatore di Calore)の設置が義務化された。これにより、使用量に応じた課金が可能になったが、固定費部分(ボイラーの維持費・共用部の暖房)は依然としてMillesimiで按分される。

「うちは冬に1ヶ月留守にしたのに、なぜ暖房費を払うのか」。この質問は毎年の総会で必ず出る。答えは「建物全体の暖房システムを維持するコストは、使用量に関わらず発生するから」だが、納得しない住人は毎年同じ質問を繰り返す。

日本のマンション総会との違い

日本のマンション総会は、事前に委任状を集めて形式的に採決する場合が多い。出席率が低く、理事会に実質的な権限が委ねられている。

イタリアは真逆だ。出席率が高く、全員が発言し、議論が紛糾し、時間がかかる。効率的ではないが、「自分の住む場所のルールに自分が関与する」という意識は強い。

これはイタリア社会全体に共通する気質だ。政治でも、職場でも、家庭でも、「黙って従う」は美徳ではない。意見を述べ、議論し、時に声を荒げ、最終的に多数決で決める。コンドミニオの総会は、その最小単位の実践の場だ。

総会の翌日、エレベーターの掲示板に議事録が貼られる。それを読みながら、「昨日の議論は何だったんだ」と思う。でも翌年も、同じ顔ぶれが同じ部屋に集まって、同じように深夜まで議論する。

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