Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
食文化

パンの重さが法律で決まっている——イタリアの食品規制が守るもの

イタリアではパンの呼称・原材料・製法が法律で規定されており、特定の名前を名乗るには条件を満たす必要があります。DOPやIGP認証と並ぶ食品規制の仕組みと、在住者が知ると面白いパンの世界を解説します。

2026-05-28
パン食品法DOP規制地方食

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

イタリアのパン屋(panetteria/forno)で「パーネ(pane)」を買うと、店ごとに形・大きさ・味が全く違う。これは職人の個性ではなく、地方ごとの法的な規定と伝統の産物だ。イタリアでは法律第580号(Legge 580/1967、その後のDPR 187/2001で改正)によって「パン」の定義が決められている。

パンの法的定義

イタリア法で「pane」を名乗れるのは、小麦粉(または全粒粉)・水・酵母・塩で作られた製品だ。油脂・砂糖・牛乳などを加えると「pane speciale(特殊パン)」に分類され、原材料を表示する義務が生じる。

パンの水分含有率にも規定がある。一般的なパンは水分40%以下、水分が多いパン(pane a pasta molle)は34%以上。これは保存性と食感に直結する。

地方ごとのパン

イタリアのパンは地方色が極めて強い。

  • Puglia(プーリア): Pane di Altamura(アルタムーラのパン)。DOP認証。硬質小麦100%で天然酵母を使い、薪窯で焼く。直径30cm以上、重さ500g以上が規格
  • Toscana(トスカーナ): Pane toscano。塩を入れない(sciocco=味気ない)。理由は諸説あるが、トスカーナの塩税が高かった歴史的背景が有力。味の濃い料理(サラミ、チーズ)と合わせるために塩なしが合理的だという説もある
  • Sardegna(サルデーニャ): Pane carasau。紙のように薄いクリスピーなフラットブレッド。羊飼いが携行食として持ち歩いた
  • Alto Adige(南チロル): Schüttelbrot。ライ麦のスパイス入り乾燥パン。ドイツ語圏の影響

DOP・IGP認証のパン

イタリアにはDOP(原産地名称保護)やIGP(地理的表示保護)を取得したパンが複数ある。Pane di Altamura DOP、Pane di Matera IGP、Coppia Ferrarese IGPなど。これらの名前を使うには、指定された地域で・指定された原材料と製法で作らなければならない。

スーパーマーケットで売られている工場生産のパンには当然これらの認証はない。パン屋で買うパンとスーパーのパンは、法的にも味的にも別物だ。

在住者の実用情報

  • 価格: パン屋のパンは1kgあたり€3〜€6(約480〜960円)。スーパーの袋入りパンは€1〜€2(約160〜320円)
  • 買い方: 重さで売る店が多い。「Mezzo chilo, per favore(500gください)」と注文する
  • 保存: イタリアのパンは保存料を使わないため、翌日には固くなる。パン粥(pappa al pomodoro)やパンツァネッラ(パンのサラダ)は固くなったパンの活用レシピ
  • パン屋の営業時間: 早朝6:00〜7:00に開き、売り切れたら閉まる。午後には欲しいパンがないこともある

日本ではパンは「どこで買っても似たような味」になりがちだが、イタリアでは20km離れた町で全く違うパンが出てくる。この多様性を法律が保護している構造は、イタリアの食文化の本質の一つだ。

コメント

読み込み中...