ヴェスパとモトリーノ——スクーターが都市のアイデンティティになった国
ローマの石畳をヴェスパが走る映像は世界中で知られていますが、イタリア人にとってスクーターは映画の小道具ではなく移動インフラです。なぜイタリアでスクーターがこれほど普及したのか。都市構造・税制・文化の3つの理由を解きます。
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イタリアのスクーター登録台数は約650万台(ACI統計)。人口6,000万人に対して約9人に1台。ヨーロッパでは圧倒的に多い。「ローマの休日」のイメージで語られがちだが、イタリア人がスクーターに乗る理由は、映画のロマンとは別のところにある。
都市構造がスクーターを選ばせる
イタリアの都市の中心部(centro storico)は中世〜ルネサンス期の街路がそのまま残っている。道幅2〜3mの路地、石畳、一方通行の迷路。車が物理的に入れない場所が多い。ZTL(Zona a Traffico Limitato、交通制限区域)も広がっており、許可なく車で進入すると€80〜€330の罰金が科される。
スクーターならZTLを通過でき(多くのZTLでは二輪車は規制対象外)、路地に入れ、駐車スペースも歩道脇に停めるだけで済む。
維持費の安さ
125cc以下のスクーターは年間保険料€200〜€500(約32,000〜80,000円)、ボッロ(自動車税)€20〜€30(約3,200〜4,800円)。ガソリン代は満タンで€7〜€10(約1,120〜1,600円)。車の維持費の5分の1以下で済む。
さらにイタリアでは16歳から50ccのスクーター(ciclomotore)に乗れ、125ccは18歳から自動車免許で運転可能。若者にとって最初の「自分の移動手段」がスクーターになる構造がある。
ヴェスパの位置づけ
Piaggio社のVespa(ヴェスパ)は1946年に誕生した。戦後の復興期に「安くて丈夫な移動手段」として爆発的に普及し、イタリアのモータリゼーションの起点になった。
現在のVespaは新車で€3,500〜€7,000(約56万〜112万円)。ファッションアイテムとしての側面が強く、ボディカラーの選択肢が豊富だ。実用面ではHonda SH125やYamaha XMAXなどの日本・アジアメーカーのスクーターが市場シェアを拡大している。
在住外国人がスクーターに乗るには
EU外の免許証の場合、1年以内に国際運転免許証またはイタリアの免許への書き換えが必要。日本の普通自動車免許でイタリアの125ccスクーターに乗るには、免許の書き換え(conversione patente)手続きが必要だ。
中古のスクーターは€1,000〜€3,000(約16万〜48万円)で見つかる。SubitoやFacebookマーケットプレイスが主要な中古市場。購入時にはpassaggio di proprietà(名義変更)の手続きをMotorizzazione(陸運局)で行う。
ヘルメットは義務。違反すると€83〜€333の罰金だ。ローマやナポリでは信号無視やノーヘルメットのライダーを日常的に見かけるが、外国人が同じことをすると取り締まりの対象になりやすい。
スクーターに乗り始めると、イタリアの都市が「四輪のために設計されていない」ことが体感でわかるようになる。石畳の路地を抜け、信号渋滞を横目にすり抜ける。その機動性を一度味わうと、車に戻れなくなる在住者は少なくない。