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イタリアの鈍行列車は1時間遅れても「定刻」:Regionale vs Alta Velocitaの二重構造

時速300kmのフレッチャロッサと、停車駅ごとに5分遅れるレジョナーレ。同じ線路を走る2つの世界がイタリアの鉄道格差を映し出す。

2026-05-15
鉄道列車遅延交通移動

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

ローマからフィレンツェまで、フレッチャロッサ(Frecciarossa)なら1時間半。レジョナーレ(Regionale)なら3時間半。しかもレジョナーレは高確率で遅れる。

価格はフレッチャロッサが40〜80EUR(約6,400〜12,800円)、レジョナーレが15〜25EUR(約2,400〜4,000円)。同じ区間を走る2つの列車が、まるで別の国の鉄道のように違う。

Alta Velocita(高速鉄道)の世界

イタリアの高速鉄道はTrenitalia(国鉄)のフレッチャロッサ(Frecciarossa)とItalo(民間)の2社が運行している。

  • フレッチャロッサ: 最高速度300km/h。ローマ〜ミラノ間を約3時間。座席クラスは4段階(Standard、Premium、Business、Executive)
  • Italo: NTV(Nuovo Trasporto Viaggiatori)が運行。フレッチャロッサとほぼ同区間を走る。価格は両社が競争しているため、早期予約で20〜30EUR程度まで下がることもある

高速鉄道の定時運行率は概ね良好で、大幅な遅延は月に数回程度。車内はWi-Fi完備、電源コンセントあり、座席も広い。日本の新幹線に近い感覚で使える。

Regionale(普通列車)の世界

レジョナーレはTrenitaliaが運行するローカル列車で、各駅停車もしくは準急(Regionale Veloce)がある。通勤・通学の足として、イタリアの日常交通を支えている。

レジョナーレの特徴は「遅延」だ。

Legambiente(環境保護団体)の年次レポート「Pendolaria」によると、レジョナーレの定時運行率(5分以内の到着)は路線によって70〜90%程度。南イタリアの一部路線では、定時運行率が60%を下回ることもある。

5分の遅延は「定刻」、15分の遅延は「やや遅い」、30分以上でようやく「遅延」という感覚が利用者の間にある。ただし60分以上の遅延が発生すると、運賃の25%が返金される制度(Indennita' di ritardo)がある。120分以上なら50%だ。

なぜレジョナーレは遅れるのか

原因は複合的だ。

線路の共有: 高速鉄道と普通列車が同じ線路を使う区間がある。高速列車が優先されるため、レジョナーレが待避線で待たされる。

車両の老朽化: 一部のレジョナーレは1970〜80年代製の車両をまだ使っている。エアコンが壊れている車両や、ドアが手動の車両もある。

単線区間: 南イタリアや地方路線には単線区間が残っている。対向列車とのすれ違い待ちが遅延を生む。

ストライキ: イタリアの鉄道ストライキは月に1〜2回の頻度で発生する。24時間ストもあるが、「朝のラッシュ帯は運行する」という変則ストも多い。ストライキのスケジュールはTrenitaliaのサイトに事前掲載される。

切符の購入と刻印

レジョナーレの切符はTrenitaliaのアプリ、ウェブサイト、駅の自動券売機、窓口で購入できる。紙の切符を買った場合、乗車前に必ずホームの刻印機(Obliteratrice)で打刻する必要がある。

打刻を忘れると、車内で検札が来た際に50EUR(約8,000円)の罰金を科される。「知らなかった」は通用しない。アプリで購入した電子チケットは打刻不要だ。

「二重構造」が示すもの

高速鉄道に乗っていると、イタリアはヨーロッパの先進国そのものに見える。レザーシートに座り、Wi-Fiで仕事をしながら、時速300kmで都市間を移動する。

レジョナーレに乗り換えると、景色が変わる。壊れたエアコン、落書きだらけの座席、30分遅れの到着。同じ国の同じ鉄道会社が運行しているとは思えない。

この二重構造は鉄道に限らない。イタリアの医療、教育、行政——すべてに「表の顔」と「裏の顔」がある。高速鉄道とレジョナーレの差は、そのまま都市部と地方の格差、北と南の格差、投資される領域とされない領域の格差を映している。

どちらのイタリアも本物だ。両方に乗ってみないと、この国は見えない。

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