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マッセリアに泊まる——プーリアの農村がラグジュアリーリゾートになった経緯

プーリア州の旧農家「マッセリア」が高級リゾートに転用され、1泊€200〜1,000超で世界の旅行者を集めている。イタリア南部の農村がなぜ観光の最前線になったのかを解説する。

2026-05-09
文化プーリア農村リゾート旅行

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プーリア州の観光客数は2019年に年間約1,500万人を記録し、コロナ後も急回復している。その目玉の一つが「masseria(マッセリア)」——16〜18世紀に建てられた要塞型の農家を改装した宿泊施設だ。

マッセリアとは何か

マッセリアはもともとプーリアの大規模農場(latifondo)の中心施設だった。石灰岩の厚い壁、中庭、オリーブ搾油所、家畜小屋、礼拝堂を備えた自己完結型の建物で、盗賊からの防御機能も兼ねていた。

20世紀後半、農業の近代化と人口の都市流出により、多くのマッセリアが廃墟になった。それを1990年代からイタリアの実業家や外国人投資家が買い取り、高級宿泊施設に転用し始めた。

価格帯と体験

マッセリアの宿泊料金は幅広い。

  • シンプルなアグリツーリズモ型: 1泊€80〜150(約12,800〜24,000円)。朝食に自家製のリコッタチーズ、オリーブオイル、パンが出る
  • ブティックホテル型: 1泊€200〜500(約32,000〜80,000円)。プール、スパ、レストラン付き
  • ラグジュアリー型: 1泊€500〜1,500(約80,000〜240,000円)。Borgo Egnazia、Masseria San Domenicoなどの有名施設

Borgo Egnaziaは2023年のG7サミットの会場にもなったプーリアの最高級マッセリアリゾートで、ジャスティン・ティンバーレイクやマドンナが滞在したことでも知られる。

プーリアの食

マッセリアに泊まる最大の理由は食だ。プーリアはイタリア最大のオリーブオイル生産地であり、小麦の産地でもある。

  • オレキエッテ(orecchiette): 耳の形をした手作りパスタ。ブロッコリー・ラーベ(cime di rapa)との組み合わせが定番
  • ブッラータ(burrata): アンドリア発祥のフレッシュチーズ。外側がモッツァレラ、中にクリームが入っている
  • フォカッチャ・バレーゼ: バーリ式のフォカッチャ。トマトとオリーブを載せて焼く
  • プリミティーヴォ(Primitivo): プーリアの代表的な赤ワイン。力強く果実味が濃い

マッセリアのレストランでは、敷地内で収穫されたオリーブオイル・トマト・野菜が使われる。「km 0(ゼロキロ)」——つまり輸送距離ゼロの食材で作る料理が、ここでは贅沢ではなく日常だ。

プーリアに住む

マッセリア体験をきっかけにプーリアへの移住を考える外国人は増えている。レッチェ(Lecce)やオストゥーニ(Ostuni)は在住外国人が集まるエリアだ。

生活費はイタリア北部と比べて大幅に安い。

  • ワンルーム家賃: レッチェで€350〜550(約56,000〜88,000円)
  • レストランでの昼食: €8〜12(約1,280〜1,920円)
  • エスプレッソ: €0.8〜1.0(約128〜160円)

課題は交通インフラだ。プーリアの公共交通は脆弱で、農村部では車が必須。バーリ空港(BRI)はLCCが多数就航しているが、バーリからレッチェまで列車で約1.5〜2時間かかる。

「イタリアの隠れた宝石」と旅行メディアで紹介されることが多いプーリアだが、在住者から見ると、その魅力は観光よりも日常の食と風景にある。夕方、マッセリアの石壁がオレンジ色に染まる時間帯に、オリーブの木の下でプリミティーヴォを飲む——その体験は、ミラノやローマでは手に入らない。

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