ヴェネツィアの水没——アクア・アルタ警報と長靴が必須の生活
ヴェネツィアの冬に繰り返されるアクア・アルタ(高潮)現象。警報システムの仕組み、長靴が欠かせない在住者の日常、MoSEバリアシステムの現状を伝える。
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11月の朝、ヴェネツィアのサン・マルコ広場が膝まで浸水している。観光客はプラットフォームの木板(パセレッレ)の上を一列になって歩き、地元住民は長靴(Stivali)を履いて普通に通勤している。これがアクア・アルタ(Acqua Alta:高潮)の現実だ。
アクア・アルタとは、南からのシロッコ風とアドリア海の高潮が重なり、ヴェネツィアの運河水位が通常より大幅に上昇する現象だ。10〜3月に発生頻度が高く、水位が海抜80cm以上になるとサン・マルコ広場の一部が浸水し始め、110cm以上では市街地の約12%が浸水する。2019年11月には187cmという記録的な高潮が発生し、観測史上で2番目の高さとなった。
警報システム 市当局(Centro Previsioni e Segnalazioni Maree)はウェブサイトとアプリで翌日の潮位予報を公開している。また実際に高潮が来る1〜3時間前に、鐘の音(カンパーナ)と電子サイレンが鳴る。サイレンの音の回数で想定水位がわかる仕組みになっている(1回=110cm、5回=160cmなど)。
MoSE(モーゼ)バリアシステム 30年以上の計画・建設期間を経て、2020年10月にMoSEシステムが初稼働した。アドリア海からラグーンへの入口3ヵ所に設置された可動式海底バリアが水位上昇時に起立し、ラグーンへの海水流入を防ぐ。2021年以降、重大なアクア・アルタの頻度は減少したが、完全な解決策ではなく、軽度の高潮への対応は依然として続いている。
ヴェネツィアに住む約25万人(本島約5万人)にとって、アクア・アルタは季節のリズムの一部だ。長靴1足と予報アプリがあれば、水没した街を日常として歩くことができる。