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ヴェネツィアと水没——アクア・アルタと観光過密化の中で暮らす住民の現実

ヴェネツィアでは「アクア・アルタ(高潮)」による浸水が年間数十回起きる。観光客が溢れる一方で住民は減少し続ける街の現実と、在住者・長期滞在者の生活事情を解説。

2026-04-10
ヴェネツィアアクア・アルタ洪水観光移住

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。

ヴェネツィアは世界で最も特殊な住環境を持つ都市のひとつだ。島嶼部(セストゥーレ)は船か徒歩でしか移動できない。スーパーへの買い物も、病院への救急も、引越しも、すべて水路と徒歩で完結する。そしてアクア・アルタ(acqua alta、高潮)という洪水リスクが日常的に存在する。

アクア・アルタとは

アクア・アルタは潮位が通常より上昇し、ヴェネツィア島内の低い地域が浸水する現象だ。「高潮」と呼ばれるが、台風や大雨ではなく、南からの強風(シロッコ)と満潮が重なることで発生する。

定義上は潮位が+80cm(干潮時のヴェネツィア海面基準)を超えたときをアクア・アルタと呼ぶ。毎年秋〜冬に多く発生し、年間30〜50回程度起きることもある。2019年11月には+189cmという記録的な高潮が発生し、市内の約80%が浸水した。

サン・マルコ広場などは特に低い地形にあり、アクア・アルタのたびに数十センチの水が広場に溜まる光景が報道される。

MOSEプロジェクト

アクア・アルタへの対策として、ラグーン入口に巨大な可動式防潮堤「MOSE(モーゼ)」が建設された。2020年から試験運用が始まり、潮位が+110cm以上になると予測される際に防潮堤を起立させてラグーン内への海水流入を防ぐ。

ただしMOSEは完全な解決策ではない。地球温暖化による海面上昇が続けば、将来的に防潮堤を起立させる頻度が増え、ラグーン内の水循環に影響が出るという指摘もある。

住民の減少

ヴェネツィア島嶼部(centro storico)の居住人口は1960年代の17万人超から、現在は約5万人にまで減少している。不便さ・アクア・アルタリスク・観光客による住環境悪化・家賃高騰が主な理由だ。

民泊(Airbnb等)の急増で長期賃貸物件が激減し、家賃が高騰した。観光業で生計を立てる人が多い一方、「住める街ではなくなってきた」と感じて本土(メストレ地区)に移住する住民が続いた。

2024年からヴェネツィア市は観光繁忙期の日帰り観光客に入島料を導入した(5EUR/人)。オーバーツーリズム対策として注目されているが、居住人口の回復には至っていない。

在住・長期滞在者の現実

ヴェネツィアに実際に住む、あるいは長期滞在する外国人は少数だが確かに存在する。家賃は他のイタリア主要都市と同程度かやや高め(1LDK月1,200〜1,800EUR・19〜28万円)だが、生活の不便さが際立つ。

重い荷物の運搬は全て手持ちか水上タクシー。スクーターも車も使えない。緊急時の搬送は水上救急艇だ。「この不便さと引き換えに、世界で最も美しい街に住む」という選択をする人がいる一方、「観光地に住んでいる感覚がしんどい」という声もある。

メストレ(本土)に住んでバポレット(水上バス)でヴェネツィアに通勤するスタイルが、現実的な折衷案として多くの就労者に選ばれている。

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