ジュリエットの家に来る年間50万通の手紙——ヴェローナの虚構と観光経済
シェイクスピアのロミオとジュリエットの舞台ヴェローナ。実在しないジュリエットの家に世界中から恋の相談が届くこの街の、フィクションが経済を動かす仕組みを解説する。
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ヴェローナの「Casa di Giulietta(ジュリエットの家)」には年間約50万通の手紙が届く。世界中から恋愛相談や告白の手紙が送られてくるが、ジュリエットは実在しない。シェイクスピアの戯曲(1597年頃)に基づく完全なフィクションだ。
フィクションを観光資源にした街
ジュリエットの家とされている建物は、13世紀に建てられたDal Capello家の邸宅。「Capello」と「Capuleti(キャピュレット家)」の音が似ていることから、1930年代にムッソリーニ政権がこの建物を「ジュリエットの家」として観光整備した。バルコニーは後から増設されたもので、シェイクスピアの作品とは何の関係もない。
それでも、年間約150万人がこの中庭を訪れる。入場料は€6(約960円)で、バルコニーに立って写真を撮ることができる。中庭にあるジュリエットの銅像の右胸に触ると恋愛運が上がるという俗信から、銅像の右胸だけが金色に磨かれている。
手紙に返事を書く人たち
50万通の手紙に対応するのは「Club di Giulietta」というボランティア団体だ。約15人のメンバーが各国語で返事を書いている。2010年の映画「Letters to Juliet」でこの活動が世界的に知られ、手紙の数が急増した。
手紙は「Giulietta, Via Cappello 23, 37121 Verona, Italy」宛てに届く。正確な住所がなくても「Giulietta, Verona」だけで届くこともある。イタリア郵便局の柔軟さも、この文化を支えている。
ヴェローナの観光経済
ヴェローナはジュリエットだけの街ではない。紀元1世紀に建てられたArena di Verona(ヴェローナ円形闘技場)は、夏季(6〜9月)にオペラフェスティバルが開催され、毎年約50万人を動員する世界有数の野外オペラ会場だ。
- Arena di Verona入場料: €10(約1,600円、オペラなし)/ オペラ公演チケットは€30〜250(約4,800〜40,000円)
- ジュリエットの家 入場料: €6(約960円)
- ヴェローナカード(VeronaCard): €20〜26(約3,200〜4,160円)で主要観光地入場可
ヴェローナ市の観光収入は年間約20億ユーロ(約3,200億円)と推定されており、人口約26万人の都市としては異常な数字だ。
住む場所としてのヴェローナ
観光都市のイメージが強いが、ヴェローナは北イタリアの産業都市でもある。ワイン(ヴァルポリチェッラ、アマローネ)、農産物、物流のハブとして機能しており、失業率はイタリア北部の平均に近い約4〜5%。
生活コストはミラノやローマより安い。
- ワンルーム家賃: €500〜800(約8万〜12.8万円)
- レストランでの昼食: €10〜15(約1,600〜2,400円)
- カフェのエスプレッソ: €1.2〜1.5(約192〜240円)
ミラノからTrenitaliaのFrecciarossa(高速鉄道)で約1時間10分。ヴェネツィアからも約1時間。北イタリアの交通の結節点に位置するため、週末にガルダ湖やドロミテに出かけやすい立地だ。
フィクションが実体経済を動かし、虚構の家に世界中から手紙が届く。ヴェローナは「物語の力」が観光産業になった街の、最も純粋な事例かもしれない。