韓国チョンセとベンチャー投資は同じ賭けをしている
韓国独自の賃貸制度チョンセは、テナントが数千万円をオーナーに預け運用させるファンド構造と同じ。チョンセ詐欺の構造をベンチャー投資のLP/GPモデルで読み解く。
この記事の日本円換算は、100KRW≒10.5円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(KRW)の金額を基準にしてください。
韓国で部屋を借りるとき、家賃を払わない代わりに数千万円を預ける。チョンセという制度の構造は、ベンチャーファンドに出資するLPとほとんど同じだ。
チョンセの仕組みを30秒で
チョンセ(전세)は、契約時にまとまった保証金をオーナーに預け、月々の家賃はゼロで住む韓国独自の賃貸制度だ。契約終了時にオーナーは保証金を全額返還する。
ソウルのアパート(マンション)の場合、2025年時点でチョンセ保証金の平均は約6億8,000万ウォン(約7,140万円)。物件価格の約54%に相当する(韓国国土交通部)。
つまり、部屋を借りる人は「家賃を払っている」のではなく「数千万円を無利子で貸し出している」。
ファンド構造に置き換えてみる
ベンチャーファンドの基本構造はこうだ。
- LP(Limited Partner): 資金を出す人。運用には関与しない
- GP(General Partner): 資金を預かって運用する人。利益を出す責任を負う
チョンセに当てはめると、テナントがLP、オーナーがGP。テナントは数千万円を預け、オーナーはその資金で不動産を購入したり、預金利息を得たりして運用する。テナントは運用に口出しできない。
ベンチャーファンドとの違いは、LPに対するリターンが「住む権利」だけという点。キャピタルゲインもインカムゲインもテナントには入らない。
オーナーが運用に失敗するとどうなるか
ここが問題の核心だ。
ベンチャーファンドなら、GPが運用に失敗してもLPは「投資した金額」の損失で済む。リスクは承知の上で出資している。
チョンセでは違う。テナントは投資のつもりで預けていない。「住むための保証金」として預けている。だが構造的にはGPに全額を託しているのと同じだ。オーナーが預かった金を不動産投資に回し、不動産価格が下落すれば、返還資金が足りなくなる。
2023年以降、韓国政府がチョンセ詐欺被害者として認定した件数は累計で約2万8,000件以上に達した(韓国国土交通部、2024年時点)。被害額は数百億円規模と報じられている(Bloomberg、2023年4月報道)。
「詐欺」と呼ばれるものの正体
チョンセ詐欺は、典型的にはこういう構造になる。
- オーナーが複数の物件でチョンセ保証金を集める
- 集めた資金で新たな物件を購入する(レバレッジ)
- 不動産価格が上がっている間は回る
- 価格が下がると、次のテナントからの保証金で前のテナントに返す自転車操業になる
- 最終的に資金がショートして返還不能に陥る
これはベンチャーファンドで言えば、GPが複数のファンドから資金を集めて1つのポートフォリオに集中投資し、出資者への分配を新規出資で賄っているのと同じだ。いわゆるポンジ・スキームの構造に近い。
「家を借りているつもり」が実態ではない
チョンセの問題は、テナントの認識と実態のズレにある。
テナントは「部屋を借りている」つもりだが、実際には「オーナーの不動産投資ファンドにLP出資している」。しかもそのファンドの運用方針も、レバレッジの比率も、他に何人のLPがいるかも開示されない。
ベンチャーファンドであれば投資契約書に運用方針・レバレッジ制限・LP優先分配条項が書かれている。チョンセにはそれがない。テナントには保証金返還請求権があるだけで、オーナーの運用状況を監視する仕組みが制度上存在しない。
なぜこの制度が維持されてきたのか
チョンセは1960年代に韓国の住宅不足と金融制度の未発達を背景に生まれた。銀行の住宅ローンが普及していなかった時代、オーナーは購入資金をテナントから調達し、テナントは月々の家賃負担をゼロにできた。双方にメリットがあった。
低金利時代が到来するまでは、オーナーがチョンセ保証金を預金するだけで年5〜10%の利息を得られた。リスクの低いモデルだった。
しかし韓国の政策金利が下がり、預金利息だけでは回らなくなった。オーナーは不動産投資に資金を回すようになり、ファンド構造としてのリスクが急速に高まった。
2025年、韓国国土交通部長官が「チョンセは時代が過ぎ去ったシステムだ」と公式に発言した。チョンセからウォルセ(月額賃料制)への移行が進みつつある。
日本人がソウルで部屋を探すときに知っておくこと
ソウルで部屋を探す場合、チョンセかウォルセかの選択がまず出てくる。
ウォルセは日本の賃貸に近い。保証金は100〜500万円程度で、月額家賃を払う。チョンセに比べてリスクは大幅に低い。
チョンセを選ぶ場合は、最低限以下を確認する必要がある。
- 登記簿謄本で抵当権を確認する: オーナーが物件に複数の抵当を設定していないか
- チョンセ保証保険(전세보증보험)に加入する: 保証金返還のリスクを保険でカバーする制度。加入は任意だが、入らない理由がない
- チョンセ価格が物件価格の80%以上の場合は避ける: 返還リスクが高い
数千万円を個人に預ける行為だという認識を持つことが、制度を理解する第一歩になる。