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クーパンのロケット配送を支える深夜労働の構造

韓国のクーパン(쿠팡)は注文から翌朝までに届くロケット配送で成長した。この速度を可能にしているのは、テクノロジーではなく深夜に働く数万人の労働者だ。

2026-05-18
韓国クーパン配送労働EC

この記事の日本円換算は、100KRW≒10.5円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(KRW)の金額を基準にしてください。

深夜0時にクーパン(쿠팡、Coupang)で洗剤を注文する。翌朝7時、玄関の前に置いてある。この「ロケット配送(로켓배송)」は韓国のECを変えた。

韓国のEC市場は年間KRW 200兆(約21兆円)規模で、クーパンのシェアは約25%。アマゾンが進出していない韓国で、クーパンはEC市場の最大プレイヤーだ。

だがロケット配送の速度は技術革新だけでは説明できない。その裏側にある労働構造を見る必要がある。

「夜明け配送」の仕組み

ロケット配送の核心は「새벽배송(セビョクベソン、夜明け配送)」だ。23:59までの注文を翌朝7:00までに届ける。

この仕組みを成立させるために、クーパンの物流センター(全国約100ヶ所以上)では深夜0時〜早朝6時にフル稼働で仕分け・積載・配送が行われている。配送ドライバーは深夜2〜3時に物流センターを出発し、早朝に配達先を回る。

物流センターの労働環境

クーパンの物流センター労働者は「쿠팡맨(クーパンマン)」と呼ばれるが、その多くは正社員ではなく「日雇い」に近い短期契約労働者だ。

時給: KRW 10,000〜13,000(約1,050〜1,365円)程度。深夜手当(22:00〜06:00は50%割増)を含めるとKRW 15,000〜19,500程度になる。

労働条件の問題点:

  • 物流センター内での1日の歩行距離が20km以上になることがある
  • 重量物の反復持ち上げによる筋骨格系障害のリスク
  • 2021年にはクーパンの物流センターで過労死が相次ぎ報じられ、社会問題になった

配送ドライバーの現実

配送ドライバーの多くは個人事業主(개인사업자)として契約している。クーパンとの雇用関係ではなく業務委託だ。

1日の配送件数: 150〜250件。住宅密度が高いソウル・首都圏では、1つのアパート団地で数十件をまとめて配達できるため効率がいい。だが地方では移動距離が伸びる。

収入: 月KRW 300万〜500万(約31万〜52万円)程度。ここから車両維持費・ガソリン代・保険料を自己負担するため、実質手取りはさらに低い。

「速い」のコスト

韓国の消費者がロケット配送を「当然」と思い始めた結果、競合(SSGドットコム、マーケットカーリー等)も夜明け配送に参入した。配送スピードの競争は、物流労働者への負荷として転嫁されている。

2021年の過労死報道を受けて、クーパンは物流センターの労働環境改善を発表した。だが構造的な問題——深夜労働に依存するビジネスモデル、個人事業主契約による雇用保障の回避——は、改善されたと言えるかどうか議論が続いている。

日本との比較

日本のアマゾンも「翌日配送」を実現しているが、「夜明け配送」は標準ではない。ヤマト運輸の「宅急便」が2024年に個人向け当日配送の縮小を発表したように、日本では配送速度より労働環境を優先する方向にシフトしつつある。

韓国の「速さ」は便利だ。だがその速さのコストを誰が払っているのかは、玄関に置かれた段ボール箱からは見えない。

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