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韓国の出前アプリ戦争は、なぜ日本で起きなかったのか

배달의민족が韓国市場を支配し、日本ではUber Eatsが外から入った。韓国発の出前アプリが強い理由を都市密度・アパート文化・スタートアップ文化から読む。

2026-04-07
韓国出前アプリ配達の民族Uber Eatsスタートアップ

韓国のフードデリバリー市場は国内発のアプリが支配している。배달의민족(バエダルミンジョク、通称バエミン)とクーパンイーツが二強だ。日本ではUber Eatsという「外来種」が市場を作った。同じアジアの隣国で、なぜこの違いが生まれたのか。

韓国の出前文化は「以前から」あった

まず見落とされがちな前提がある。韓国にはスマホアプリ以前から出前文化が根付いていた。

チキン、チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺)、ピザ——韓国の飲食店は古くから電話注文による出前に対応していた。配達専門のバイクが住宅街を走り回る光景は、1990年代から日常だった。

日本にも出前文化はある。蕎麦屋や寿司屋の出前、ピザの宅配。でも韓国との違いは「ほぼ全てのジャンルが出前対応していた」こと。韓国では焼肉すら出前で頼める。出前は特別なサービスではなく、食事の標準的な選択肢だった。

バエミンがやったのは、この既存のインフラをデジタル化したことだ。「新しい市場を作った」のではなく、「既存の行動をアプリに載せた」。だから普及が速かった。

都市密度がビジネスモデルを成立させる

ソウルの人口密度は約16,000人/平方キロメートル。東京23区(約15,600人/平方キロメートル)と同等かそれ以上だ。

しかし住居の形態が決定的に違う。ソウルの住民の大半がアパート(韓国語では「아파트」、日本語でいうマンション)に住んでいる。30階建て、40階建ての団地型アパートが密集し、一つの団地に数千〜数万人が住む。

この構造はデリバリーにとって理想的だ。配達先が「面」ではなく「点」に集中している。一つのアパート団地に複数の注文が入れば、配達員は同じビルで何件もの配達をこなせる。1件あたりの配達コストが下がる。

東京は住居が分散している。戸建住宅も多く、マンションも低層〜中層が中心。配達先が面的に広がるため、1件あたりの配達効率がソウルより低い。

「チキンと一緒にビールを」

韓国のフードデリバリーを語る上で外せないのが「チメク」文化だ。チキン(チキン)+メクチュ(ビール)の組み合わせで、韓国の国民的な夜食・晩酌スタイル。

チメクは家で食べることが多い。アパートの自室でチキンを注文し、コンビニで買ったビールと合わせる。この「家飲み+出前」の文化が、デリバリーの需要を安定的に支えている。

日本の居酒屋文化は「外で飲む」が基本だった。家飲みが増えたのはコロナ以降で、出前のニーズは韓国ほど根強くなかった。Uber Eatsが日本で本格的に普及したのは2020年のパンデミック以降であり、「文化的な下地がない中で、外的ショックが需要を作った」構図だ。

韓国スタートアップ文化の特殊性

バエミンを作った우아한형제들(優雅な兄弟たち)の創業者キム・ボンジンは、元デザイナーだ。2010年にバエミンをリリースし、2019年にはドイツのDelivery Heroに約4兆ウォン(当時約3,800億円)で買収された。

韓国のスタートアップ文化には独特の背景がある。

まず、インターネットインフラの充実。韓国のブロードバンド普及率は世界トップクラスで、スマホの普及も早かった。デジタルサービスのユーザー基盤が早期に整っていた。

次に、財閥(チェボル)への対抗意識。チェボル系企業に入れなかった(入りたくなかった)若者がスタートアップに向かう流れがある。大企業が支配する経済への不満が、起業のエネルギーに変換されている。

そして、兵役後の起業。韓国の男性は約18ヶ月の兵役義務がある。除隊後に「もう組織に属したくない」と感じる人が一定数おり、彼らがスタートアップの創業者や初期メンバーになるケースが少なくない。

日本で国内アプリが育たなかった理由

日本にも出前館という国内サービスがあったが、Uber Eatsのような急成長は実現できなかった。なぜか。

まず、配達員の確保。Uber Eatsはギグワーカー(個人事業主としての配達員)モデルを持ち込んだ。アメリカで磨かれたこのモデルは、労働規制の異なる日本でも機能した。日本の出前館は当初、加盟店の従業員が配達する形式で、配達員のスケーラビリティに限界があった。

次に、資金力。Uberはグローバルで調達した巨額の資金を日本市場に投入できた。国内スタートアップが同じ規模の投資を行うのは難しかった。

そして文化的な壁。日本の飲食店は「作りたてを店で食べる」ことへのこだわりが強い。出前で品質が落ちることを嫌い、デリバリー対応に消極的な店が多かった。韓国の飲食店は「出前で食べても美味しいメニュー」を最初から持っていた。

独占か競争か

韓国のバエミンは市場シェアの過半を占めた後、手数料の引き上げや広告の強制などで飲食店から反発を受けた。独占企業の弊害が顕在化している。

日本では出前館とUber Eatsの二強体制(menuの撤退後)が続いているが、市場全体のペネトレーション(浸透率)は韓国に比べてまだ低い。

韓国で起きた出前アプリ戦争は、「既存の文化的インフラ」×「都市構造の効率性」×「スタートアップの機動力」が掛け合わさった結果だ。日本にはこの3つのうち最初の2つが弱かった。

逆に言えば、日本でフードデリバリーが韓国並みに普及するには、住居の形態(分散型→集住型)か食文化(外食中心→宅食中心)のどちらかが構造的に変わる必要がある。コロナがきっかけの一つになったが、構造が変わるかどうかはまだわからない。

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