チムジルバンは「最後のセーフティネット」として機能している
韓国のチムジルバン(찜질방)は24時間営業の入浴施設だ。だが深夜の客層を見ると、くつろぎに来た人だけではない。終電を逃した人、家に帰りたくない人、家がない人——チムジルバンは非公式の社会保障として機能している。
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深夜1時のチムジルバン(찜질방)。大きな共用フロアに数十人が寝転んでいる。テレビの音だけが聞こえる。半分は目を閉じている。もう半分はスマートフォンを見ている。
韓国のチムジルバンは入場料KRW 10,000〜15,000(約1,050〜1,575円)で24時間滞在できる。大浴場、サウナ、汗蒸幕(ハンジュンマク)、仮眠スペース、食堂が揃っている。
観光ガイドには「韓国文化を体験できるスポット」と書かれているが、深夜のチムジルバンが担っている機能はもっと複雑だ。
深夜の3つの客層
1. 終電を逃した人 ソウルの地下鉄は0:00頃に終電を迎える。タクシー代(ソウル市内でKRW 10,000〜30,000、約1,050〜3,150円)を払うより、チムジルバンで一晩過ごす方が安い場合がある。特に金曜・土曜の夜。
2. 家に帰れない・帰りたくない人 家庭内の問題——DVから夫婦喧嘩まで——で「今夜は家に戻りたくない」人にとって、チムジルバンは匿名で安全な避難先になる。ビジネスホテル(KRW 50,000〜100,000、約5,250〜10,500円)より圧倒的に安い。
3. 住居を失った人 韓国のホームレス支援団体の調査によると、チムジルバンを常宿としている人が一定数いる。毎晩KRW 10,000を払って寝る。月換算でKRW 300,000(約31,500円)。ソウルのワンルーム(원룸)のウォルセ(月家賃)がKRW 40万〜60万であることを考えると、チムジルバン暮らしの方が安い——保証金(チョンセまたは保証金)を払えない人にとっては。
社会保障の隙間を埋める
韓国の公的な緊急宿泊施設(노숙인 쉼터、ノスギンシムト)は全国に約140ヶ所(保健福祉部統計)。定員は限られており、利用にも手続きが必要だ。
チムジルバンは手続き不要、身分証不要(現金払いの場合)、24時間いつでも入れる。事実上の「最後のセーフティネット」として、公的制度の隙間を埋めている。
チムジルバンの経営側にとって
深夜の長時間滞在客は、経営者にとって複雑な存在だ。入場料は払ってくれるが、深夜に寝ているだけでは追加売上(食事・飲み物・マッサージ)が出にくい。一方で、深夜の稼働率が上がれば固定費の回収に貢献する。
一部のチムジルバンでは深夜料金を追加徴収するケースもある(22:00以降の入場でKRW 2,000〜5,000追加)。
文化体験の裏側
日本人が韓国旅行でチムジルバンに行くとき、ゆで卵を食べ、汗蒸幕で汗をかき、タオルで羊の角を作って写真を撮る。それは楽しい体験だ。
だが同じ建物の同じフロアで、まったく別の文脈で過ごしている人がいる。チムジルバンが「文化」であると同時に「社会制度の代替物」であること。その二重性を知っておくと、床に寝転ぶときの見え方が少し変わる。
KRW 10,000で屋根と温もりとシャワーが手に入る場所。それが韓国のチムジルバンのもうひとつの意味だ。