韓国焼肉の価格が毎年上がる構造的な理由
韓国の焼肉(カルビ・サムギョプサル)の価格高騰の背景にある、輸入牛肉依存・豚肉需給・外食産業の構造を数字で解説。
この記事の日本円換算は、100KRW≒10.5円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(KRW)の金額を基準にしてください。
ソウルで焼肉を食べて、会計を見て驚く。サムギョプサル(豚バラ)2人前とビール2杯で5万ウォン(約5,250円)を超えることが珍しくない。韓国の焼肉は安いイメージがあるが、それはもう過去の話です。
サムギョプサルの価格推移——10年で1.5倍
韓国統計庁の消費者物価統計によると、サムギョプサルの小売価格は2014年の100gあたり約1,600ウォンから、2024年には約2,400ウォンに上昇。10年で約1.5倍です。外食価格の上昇幅はさらに大きく、ソウルの焼肉専門店でのサムギョプサル1人前(200g)は15,000〜20,000ウォン(約1,575〜2,100円)が相場になっています。
韓牛(한우、ハヌ)のカルビはもっと高い。韓牛カルビ1人前(150〜200g)は30,000〜50,000ウォン(約3,150〜5,250円)。2人で韓牛カルビを食べると、ビールとサイドメニューを入れて10万ウォン(約10,500円)を超えるのが普通です。
なぜ高いのか——韓牛の構造問題
韓牛が高い理由は明快。供給が限られているからです。
韓牛は韓国固有の肉用牛品種で、国内でしか生産されない。韓国の韓牛飼育頭数は約370万頭(2024年、韓国畜産業協同組合)で、年間の牛肉生産量は約27万トン。しかし韓国の牛肉消費量は約70万トン(韓国農村経済研究院推計)で、自給率は約38%にとどまります。残り62%はアメリカ産・オーストラリア産の輸入牛肉で賄っている。
韓牛は「韓国産のプレミアム牛肉」というポジションで、価格は輸入牛肉の2〜3倍。日本でいう和牛と輸入牛肉の価格差に似た構造です。韓牛農家の経営規模は小さく(平均飼育頭数約30頭)、大規模化が進みにくい。結果として供給は増えず、需要だけが伸び、価格が上がり続けています。
サムギョプサルが高い理由——韓国人は豚バラが好きすぎる
韓牛が高いのはまだ理解できる。問題はサムギョプサルです。豚肉なのになぜ高いのか。
答えは、韓国人の豚肉消費の偏り。韓国の1人あたり豚肉消費量は年間約27kg(OECD統計、2023年)で、日本の約13kgの2倍以上。しかも、消費される部位がサムギョプサル(豚バラ)に集中しています。
豚1頭から取れるバラ肉の比率は約15〜18%。ところが韓国の豚肉消費に占めるバラ肉の比率は約30%に達するという推計がある。つまり、バラ肉の需要が供給能力を構造的に上回っている。
この需給のミスマッチを埋めるため、韓国は豚バラ肉を大量に輸入しています。ドイツ、スペイン、アメリカ、チリなどからの輸入豚バラが国内流通量の相当部分を占める。輸入価格は国産より安いが、為替変動や国際的な豚肉価格の上昇が直接波及します。
外食費高騰の連鎖
焼肉の値上がりは、原材料費だけでは説明できない。
韓国の外食産業は2020年以降、人件費の急激な上昇に直面しています。最低賃金は2024年時点で時給9,860ウォン(約1,035円)。2018年の7,530ウォンから30%以上上がった(韓国最低賃金委員会)。テナント賃料もソウル中心部では上昇傾向で、繁華街の1階店舗の月賃料は坪あたり30万〜50万ウォンに達する地域もあります。
肉の原価、人件費、テナント料。この3つが同時に上がっている。結果として、焼肉店のメニュー価格は年3〜5%のペースで上昇を続けています。
「1人焼肉」という新しい選択肢
価格上昇の裏で、韓国の焼肉の食べ方自体が変わりつつあります。
伝統的に韓国の焼肉は「みんなで大量に食べるもの」でしたが、最近はソウルを中心に「1人焼肉(혼고기、ホンコギ)」の店が増えています。1人用の小型ロースターで、1人前から注文できる。価格は1人前10,000〜15,000ウォン(約1,050〜1,575円)で、2〜3人前注文が前提の従来型の店より総額は抑えられます。
また、大型量販店のコストコやEマートで肉を買って家で焼く「家焼肉(집고기、チプコギ)」も定着しています。コストコのUSプライムカルビは100gあたり2,000〜2,500ウォン程度で、外食の半額以下。
安く焼肉を食べるなら
在韓日本人の間で共有されている知恵をいくつか。
- 市場(시장)の焼肉横丁を探す。ソウルなら馬場洞(マジャンドン)畜産市場が有名。卸売市場の2階に焼肉店が並び、市場価格で食べられる
- チェーン店よりも個人経営の「骨付きカルビ」店。水原(スウォン)カルビや春川(チュンチョン)タッカルビのように、地方発祥の専門店は価格対味のバランスがいい
- ランチタイムのセットメニュー。多くの焼肉店はランチに限り1人前から注文可能で、価格も15〜20%程度安い
韓国焼肉の価格は今後も上がる可能性が高い。韓牛の供給制約、豚バラへの需要集中、人件費の上昇——いずれも短期的に解消する要因がないからです。「韓国は焼肉が安い」という認識は、そろそろアップデートが必要かもしれません。