K-ドラマのロケ地に住民がいる——撮影地観光の経済と摩擦
韓国ドラマの撮影地が観光地化する仕組み、地域経済への影響、住民との摩擦、そしてロケ地ツーリズムの経済規模を解説。
この記事の日本円換算は、100KRW≒10.5円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(KRW)の金額を基準にしてください。
ドラマの放送が終わった翌日から、その場所に観光客が押し寄せる。韓国ではこれが繰り返し起きています。
ロケ地観光の規模
韓国観光公社は、外国人観光客の韓国訪問動機として「K-ドラマ・映画」を挙げる割合が約25%に達すると報告しています(2024年訪韓外国人動向調査)。年間約1,700万人の外国人観光客のうち、400万人以上がK-コンテンツの影響で韓国を訪れている計算です。
この流れは自治体にとっては大きなチャンス。ドラマのヒット1本で、それまで無名だった地域に年間数十万人の観光客が訪れるようになる事例が複数あります。
「愛の不時着」以降の加速
ロケ地観光のインパクトが最も可視化されたのは「愛の不時着(사랑의 불시착)」(2019-2020年放送)でしょう。スイスのイゼルトヴァルトが劇中に登場し、アジアからの観光客が殺到。最終的にこの村は観光バスの乗り入れ規制と入村料の徴収に踏み切りました。
韓国国内でも同じことが起きています。「トッケビ(도깨비)」(2016-2017年)の撮影に使われた仁川のチャイナタウン付近の階段、「梨泰院クラス(이태원 클라쓰)」のモデルになった梨泰院の通り、「ヴィンチェンツォ」のロケ地になったソウル近郊の廃工場——いずれも放送後に観光客が急増しました。
自治体の誘致合戦
ドラマのロケ地に選ばれることの経済効果を知っている韓国の自治体は、積極的に撮影誘致を行っています。
韓国には「地域映像委員会(지역영상위원회)」が全国に17カ所設置されており、撮影許可の簡素化、ロケ場所の提案、補助金の支給などを行っている。一部の自治体はドラマの制作会社に撮影誘致のインセンティブとして数千万〜数億ウォンの支援金を出すこともあります。
慶尚南道の統営(トンヨン)は「欲望のない男(눈이 부시게)」や「海街チャチャチャ(갯마을 차차차)」のロケ地として知られ、ドラマ放送後に年間観光客が数十万人単位で増加しました。統営市はロケ地マップの作成、撮影セットの保存、観光案内所の設置など、ロケ地観光のインフラ整備に投資しています。
住民との摩擦——「ここは誰かの生活の場所」
一方で、ロケ地観光には必ず摩擦が伴います。
「梨泰院クラス」のモデルとなった梨泰院エリアの飲食店街は、放送後にSNS目的の観光客が急増。店の前で写真を撮るだけで何も注文しない人、深夜まで騒ぐグループ、住宅街に入り込んで撮影する人——住民からの苦情が相次ぎました。
北村韓屋村(プクチョンハノンマウル)は、もっと深刻なケースです。伝統的な韓屋が並ぶこの地区は、もともと一般の住宅街。ドラマや映画の撮影地として有名になり、観光客が住宅の前で写真を撮り、路地に入り込む事態が続いた。ソウル市は最終的に「観光客は指定された7つのフォトスポットでのみ撮影可能」とするルールを導入し、違反者には最大10万ウォンの過料を科す制度を設けました。
ロケ地の「賞味期限」
ロケ地観光には賞味期限がある。ドラマの放送終了から半年〜1年がピークで、その後は急速に客足が落ちるのが一般的です。
この問題に対して、一部の自治体は「撮影セットの常設化」で対応しています。慶尚北道の安東(アンドン)河回村は、伝統的な文化遺産でありながらドラマのロケ地としても繰り返し使われることで、安定した観光客を維持している。南怡島(ナミソム)は「冬のソナタ」(2002年)のロケ地ですが、20年以上経った今でも年間約300万人が訪れるテーマパーク的な観光地として存続しています。
ただし、南怡島のような成功例は例外的。多くのロケ地は、次のヒットドラマが出ると忘れられていきます。
ロケ地巡りの実用情報
韓国のロケ地を巡りたい場合、韓国観光公社の公式サイト(visitkorea.or.kr)に「ロケ地検索」機能があり、ドラマ名で撮影場所を検索できます。
ソウル近郊で比較的アクセスしやすいロケ地としては、以下が定番。
- 景福宮・昌徳宮: 時代劇の定番。地下鉄3号線安国駅から徒歩5分
- 北村韓屋村: 上記の通り、撮影マナーに注意。同じく安国駅
- 南山タワー: 恋愛ドラマの定番。南山ケーブルカーで山頂へ
- 仁川チャイナタウン: 仁川駅から徒歩3分。「トッケビ」関連スポット
- 坡州(パジュ)ヘイリ芸術村: ドラマの撮影に頻繁に使われる芸術村。ソウルからバスで約1時間
ドラマで見た風景と実際の場所のギャップを楽しむのも、ロケ地巡りの面白さです。画角を変えるだけで、ドラマの中のロマンチックな路地が、実は幹線道路のすぐ裏だったりする。映像の魔法を現場で答え合わせする体験は、韓国ならではのものかもしれません。