キムチだけじゃない——韓国の発酵食品「ジャン」が食卓を支配している構造
コチュジャン・テンジャン・カンジャンなど韓国の発酵調味料「ジャン」の世界。キムチの陰に隠れた発酵文化の奥深さと、日常食への浸透を解説。
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韓国の発酵食品といえばキムチ。でも実際に韓国で暮らしてみると、毎日の料理を支えているのはキムチよりも「ジャン(장)」——発酵調味料の方だと気づく。
ジャンとは何か
ジャンは大豆を発酵させた調味料の総称。日本の味噌・醤油と同じルーツを持つが、韓国では用途別に細かく分化している。
| 名称 | 日本語の近似 | 特徴 |
|---|---|---|
| カンジャン(간장) | 醤油 | 薄口と濃口があり、用途で使い分ける |
| テンジャン(된장) | 味噌 | 日本の味噌より粗く、発酵が強い |
| コチュジャン(고추장) | — | 唐辛子+もち米+大豆を発酵。日本に対応する調味料がない |
| チョングッチャン(청국장) | 納豆に近い | 大豆を短期間発酵させたもの。においが非常に強い |
コチュジャンは16世紀以降、唐辛子の伝来後に生まれた比較的新しい調味料。テンジャンやカンジャンはそれ以前から数百年の歴史がある。
スーパーのジャン売り場
韓国のスーパーに行くとジャン売り場の広さに驚く。日本のスーパーで味噌が棚1段に収まっているのに対し、韓国ではテンジャンだけで棚1段、コチュジャンで棚1段、カンジャンは種類別に棚2〜3段を占める。
価格帯も幅広い。工場生産のコチュジャンはKRW 5,000〜10,000(約525〜1,050円)で買えるが、伝統製法で3年以上熟成させた「チェレシク(재래식)」のものはKRW 30,000〜80,000(約3,150〜8,400円)になる。
毎日の食卓での役割
韓国の家庭料理でジャンを使わないメニューを探す方が難しい。
- 朝食: テンジャンチゲ(된장찌개)が定番。テンジャン+豆腐+野菜の味噌汁的な存在
- 昼食: ビビンバにコチュジャン、冷麺にカンジャンベースのタレ
- 夕食: サムギョプサルの付けダレにテンジャン+ニンニク、チゲ類全般
外食でも事情は同じ。食堂のテーブルに必ず置いてある小皿の調味料は、ほぼ全てジャン系だ。
チョングッチャンという壁
チョングッチャン(청국장)は日本人にとって最大のハードルかもしれない。納豆を煮込んだようなにおいが店全体に充満する。韓国人の中でも好き嫌いが分かれる食べ物で、チョングッチャンチゲの専門店は換気設備が特別仕様になっていることもある。
ただ、食べてみると濃厚な旨味がある。冬場にKRW 8,000〜10,000(約840〜1,050円)で食べられるチョングッチャンチゲは、体が温まる韓国の冬の定番料理だ。
ジャンドク——マンションのベランダにある甕
伝統的な韓国の家にはジャンドクテ(장독대)——ジャンを熟成させる甕を並べた場所がある。今でも地方の一軒家では甕が庭先に並んでいる光景を見かける。
ソウルのマンションでは甕を置く場所がないため、市販品を使う家庭が大半。しかし実家から手作りテンジャンやコチュジャンが送られてくる文化は根強く残っている。韓国で「お母さんの味」と言えば、それはお母さんが仕込んだジャンの味を意味することが多い。
発酵食品は時間がそのまま味になる。韓国の食文化がジャンを中心に回っている理由は、この「時間の蓄積」に価値を置く食の思想と無関係ではない。