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韓国の焼酎(소주)が安いのは政府の設計である

韓国のソジュ(焼酎)はコンビニでKRW 1,500〜2,000(約157〜210円)。ビールより安い。この価格は市場原理ではなく、政府の税制と産業政策が生み出したものだ。

2026-05-18
韓国ソジュ焼酎酒税文化

この記事の日本円換算は、100KRW≒10.5円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(KRW)の金額を基準にしてください。

韓国のコンビニ(CU、GS25、セブンイレブン)でソジュ(소주)360mlを買うと、KRW 1,800前後(約189円)。日本のコンビニで缶チューハイ350mlが150〜200円であることを考えると、アルコール度数16〜17%の蒸留酒がこの値段で買えるのは異常に安い。

この価格は偶然ではない。設計だ。

酒税の構造——蒸留酒なのにビールより安い

韓国の酒税(주세)は酒類ごとに異なる税率が適用されている。2020年の酒税法改正以降、ビール・マッコリは容量比例課税(KRW/リットル)に移行したが、ソジュは依然として従価税(出荷価格の72%)が適用されている。

ポイントはソジュの出荷価格が極端に低いことだ。大量生産と原料コストの低さにより、製造原価がKRW 300〜400/本程度。これに72%の酒税をかけても、最終小売価格はKRW 1,800程度に収まる。

ビール(500ml缶)がKRW 2,500〜3,500(約262〜367円)するのに対し、ソジュの方が安い。蒸留酒が醸造酒より安い国は世界的に見ても珍しい。

ハイト眞露の市場支配

韓国のソジュ市場は、ハイト眞露(하이트진로)のシェアが約50%を超える寡占状態だ。「チャミスル(참이슬)」は韓国で最も売れているソジュブランドで、世界の蒸留酒ブランドの中でも販売量トップクラスとされる。

この寡占構造が価格を低く維持している。大量生産によるスケールメリットと、価格を上げれば世論の反発を招くという政治的リスクが、メーカーの価格設定を抑制している。

「国民酒」の政治経済学

ソジュの価格は韓国社会では準公共財のように扱われている。2023年にハイト眞露がチャミスルの価格をKRW 100(約10.5円)値上げしたとき、ニュースとして大きく報じられ、SNSで抗議の声が上がった。

ソジュの値上げは「庶民の楽しみを奪う」として政治的なリスクになる。物価上昇のなかでもソジュの価格上昇率は他の食品・飲料に比べて低く抑えられてきた。牛乳や卵の価格が倍になっても、ソジュはゆるやかにしか上がらない。

飲酒文化との相乗効果

安いソジュは飲酒文化を加速させ、飲酒文化がソジュの需要を維持する——この循環が韓国のアルコール消費量を押し上げている。

韓国の成人1人あたりの年間アルコール消費量は約8.7リットル(純アルコール換算、WHO 2019年データ)で、日本(約7.0リットル)を上回る。特に蒸留酒の消費比率が高いのが特徴だ。

安い酒が生む社会コスト

ソジュの安さは社会的コストも生んでいる。韓国のアルコール関連疾患の医療費、飲酒運転事故、アルコール依存症の治療費を合計すると、年間KRW 10兆(約1兆500億円)を超えるという推計がある(国立精神健康センター等の研究)。

「安い酒」の代償を誰が払っているのか。ソジュの価格には、税制・産業政策・政治力学・文化慣行が複雑に絡み合っている。コンビニのKRW 1,800は、見た目ほど単純な数字ではない。

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