韓屋村(ハノクマウル)——伝統建築の保存と現代の生活
北村・西村・全州の韓屋村。瓦屋根と土壁が残る伝統建築はどのように保存され、今も人が暮らす空間として機能しているか。観光化の光と影も含めて整理する。
この記事の日本円換算は、100KRW≒10.5円で計算しています(2026年4月時点)。
景福宮の北側に広がる北村(プクチョン)韓屋村を歩くと、1920〜30年代に建てられた韓屋が密集した坂道に出る。黒瓦と白壁のコントラスト、内側に向かって開いた中庭の構造——それは単なる観光スポットではなく、今も人が住んでいる住宅街だ。
韓屋とは何か
韓屋(ハノク)は朝鮮時代から続く伝統的な木造建築様式。特徴は「온돌(オンドル)」と呼ばれる床暖房構造、内側に庭を向けた「ㄷ字型」「ロ字型」の間取り、そして深い軒の傾斜だ。風・雨・日差しを季節ごとに調整する機能的な設計で、夏は涼しく冬は暖かい。
ソウル:北村と西村
北村(プクチョン)韓屋村
景福宮と昌徳宮に挟まれた一帯。かつては両班(ヤンバン・貴族階級)の邸宅が集まっていた。現在もおよそ900棟以上の韓屋が残り、その多くに人が実際に居住している。
観光地としての人気が高まりすぎた結果、住民の生活に支障が出て、ソウル市が観光客の早朝・深夜の立ち入り制限を設けた経緯がある(現在も時間帯制限が継続)。「フォトスポットとして消費される」ことへの住民の反発は、オーバーツーリズムの典型的な問題として議論されてきた。
西村(ソチョン)
景福宮の西側。北村ほど観光化が進んでいないため、よりローカルな雰囲気がある。独立系カフェ・ギャラリー・書店が韓屋の中に入居し、現代の利用と伝統建築が融合した形になっている。
全州(チョンジュ)韓屋村
ソウルから南に約200km、全羅北道の全州(チョンジュ)には7,000棟規模の韓屋が保存された「全州韓屋マウル」がある。ソウルの北村より規模が大きく、ゲストハウス・韓服体験・伝統食(全州ビビンバが有名)の商業施設も充実している。
ただしこちらも観光化が進んでおり、主要通りはお土産屋が並ぶ観光ストリートになっている。韓屋の雰囲気を静かに楽しみたいなら路地の奥に入る必要がある。
韓屋リノベとの共存
韓国政府・各自治体は韓屋保存に補助金を出しており、所有者が修繕する際に一定額の補助が受けられる仕組みがある。一方で「快適さ」との折り合いも問題で、現代の断熱・水回りを確保しながら外観を保存するリノベーション技術が発展してきた。
ソウルでは韓屋を宿泊施設に転用した「韓屋ゲストハウス」も増えており、在住者が友人や家族の来韓時に利用するケースも多い。北村周辺の宿泊は1泊10万〜30万ウォン(10,500〜31,500円)程度が相場。韓屋の中で朝を迎える体験は、コンクリートのビルとは全く異なるソウルを見せてくれる。