韓国ウェブトゥーンが世界市場を取った方法——縦スクロール漫画の発明と日本マンガへの逆輸入
2023年に世界市場で約1.7兆ウォン規模に成長した韓国ウェブトゥーン。NAVER・KAKAOの競争、スマートフォン時代に最適化された縦スクロール形式の発明、ハリウッドへの実写化、日本マンガへの影響を読み解く。
この記事の日本円換算は、1KRW≒0.11円(1万KRW≒1,100円)で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(KRW)の金額を基準にしてください。
2003年、NAVERは「웹툰(ウェブトゥーン)」という新しいコンテンツサービスをひっそりと開始した。当時、ネット上での漫画コンテンツといえばスキャンした紙の漫画をサイトにアップロードするのが一般的だった。NAVERが選んだのは全く別の道——最初からデジタル(画面)のために設計された漫画だ。
20年後の2023年、ウェブトゥーンの世界市場規模は約1.7兆ウォン(約1,870億円)とも推計されており(한국콘텐츠진흥원=韓国コンテンツ振興院の調査ベース)、日本・北米・東南アジアに日本語・英語・現地語で展開されている。
縦スクロール形式の「発明」
日本の漫画は横向きのページをめくって読む。右から左へ、コマからコマへ視線が動く。
ウェブトゥーンが採用したのは「縦スクロール(Vertical Scroll)」だ。スマートフォンを縦持ちにして、下にスクロールしながら読む。コマの境界線は基本的になく、背景と人物が上下につながって続いていく。
この形式が「発明」と呼ばれるのは、「スマートフォンでの読書体験に最初から合わせた」という点だ。日本の漫画がデジタル化する際に「横ページをスキャンしてアプリに載せた」のとは根本的に異なる設計思想がある。
縦スクロールにはいくつかの効果がある。場面転換をスクロールの「間(ま)」で演出できる、コマの天地を長く使った演出(見上げるアングル、落下シーン)が自然にできる、スクロール速度で読者のペースが変わるので「引き込み」の設計がしやすい。
NAVERとKAKAOの競争
韓国ウェブトゥーン市場の成立には、2大プラットフォームの競争が決定的な役割を果たした。
NAVER Webtoon(현재の'Webtoon Entertainment'): 2004年にウェブトゥーンサービスを開始。無料・広告収入モデルを基本に、人気作品は「プレミアムチケット(유료 미리보기)」で先読み課金を設ける方式を確立した。2014年から英語版(LINE Webtoon)で海外展開を本格化。2024年にNASDAQ上場(Webtoon Entertainment)。
KAKAO Webtoon / Kakao Entertainment: NAVERより後発だが、KAKAO Pageを通じてコインによるエピソード単位の課金モデルを採用。「待てば無料」(一定時間待つと無料で次話を読める)という仕組みを導入し、中毒性の高い課金設計で高収益を上げた。2021年にKakaoがタパスメディア(米国の漫画プラットフォーム)とRadioSirenを買収し北米展開を加速。
この2社の競争がクリエイターへの高い報酬と大量のコンテンツ投資を生み、質・量ともにグローバルで通用するコンテンツの蓄積につながった。
ハリウッド実写化という「出口」
ウェブトゥーンの経済的規模が拡大した理由のひとつは、Netflixなどストリーミング大手との連携だ。
Netflixが制作・配信した「スイートホーム(Sweet Home)」「이태원 클라쓰(梨泰院クラス)」「지금 우리 학교는(今、私たちの学校は)」はいずれもウェブトゥーン原作だ。
この「ウェブトゥーン→ドラマ→グローバル展開」のパイプラインは、原作ウェブトゥーンへの逆流効果を生む。ドラマを見た視聴者が原作を読みに来て、プラットフォームの登録者が増える。
日本マンガへの逆輸入
日本では「縦スクロール漫画」は「ウェブトゥーン」というジャンル名でも認識されるようになった。LINEマンガ(LINE Digital Frontier)、ピッコマ(KAKAO Japanの日本法人)が日本市場に縦スクロール形式の漫画を展開し、2020年代に急成長した。
ピッコマは2021年に日本のiOSアプリ売上ランキング1位を記録した(App Annie調査)。日本の漫画アプリ市場でKAKAOの日本法人が首位に立ったという事実は、コンテンツの「輸出入」が逆転したことを示している。
日本の出版社・漫画家も縦スクロール形式の制作に参入し始めており、集英社・小学館が独自の縦スクロール漫画サービスを立ち上げた。「日本発の縦スクロール漫画」という逆輸入現象が起きている。
クリエイター経済の規模
ウェブトゥーンプラットフォームが成立させたのは「作家の直接収益」という経済モデルだ。
NAVERウェブトゥーンの人気連載作家の年収は億ウォン単位(1億KRW ≈ 1,100万円以上)になる場合がある、とされる(作家インタビューや韓国メディアのレポートに基づく推計)。加えてドラマ化・映画化の原作料、グッズ展開、キャラクターライセンスが加わる。
日本の漫画家が月刊誌・週刊誌の連載で収益を得るモデルと比較すると、ウェブトゥーンは「1話単位の反応が即座にわかるデジタル直販モデル」という点が大きく異なる。コメント・ハート数・スクロール完了率などのデータが作家にフィードバックされ、物語設計に反映される。
韓国在住者・在住希望者への視点
ソウル在住の日本人にとって、ウェブトゥーンは「生活インフラ」の一部になっている側面がある。地下鉄の移動中、NAVER・KAKAOのアプリを開いてウェブトゥーンを読む光景は日常だ。
韓国語の勉強目的でウェブトゥーンを活用している日本人も多い。特に日常会話・若者言葉の吸収に有効とされている。
コンテンツ産業・IP(知的財産)関連のビジネスで韓国に関わりたいなら、ウェブトゥーンの流通・ライセンス・翻訳・制作支援の分野は人材需要が継続的にある。日韓バイリンガル人材の希少性は高い。
参考情報
- 한국콘텐츠진흥원(Korea Creative Content Agency, KOCCA): Webtoon Industry Report 2023
- NAVER Corporation: Annual Report
- Kakao Entertainment: Investor Relations
- App Annie / data.ai: Japan app store rankings