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マレーシアの冷房は「建築の代わり」である——熱帯で快適さを買う構造

年間平均気温27℃のマレーシアでは、冷房が建築設計の弱点を補う役割を果たしている。電気代の実態、冷房依存が生む健康問題、冷房なしで暮らす人々の工夫を追う。

2026-05-19
冷房建築電気代気候コンドミニアム

この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。

KLのコンドミニアムに住むと、冷房を止めた瞬間に部屋の温度が32℃を超えることに気づく。窓を開けても風が入らない。天井は低く、壁はコンクリートで蓄熱する。マレーシアの多くの集合住宅は、冷房が動いている前提で設計されている。冷房が止まると居住不能になる建物だ。

電気代の構造

マレーシアの電気料金は累進制で、使えば使うほど単価が上がる。

使用量(kWh/月)単価
1〜200MYR 0.218/kWh
201〜300MYR 0.334/kWh
301〜600MYR 0.516/kWh
601〜MYR 0.546/kWh

冷房を1日10〜12時間使う2LDKの家庭で、月の電気代はMYR 200〜400(約6,400〜12,800円)が目安。日本と大差ない。ただし冷房を24時間つけっぱなしにすると月MYR 600以上に跳ね上がり、累進の上位ブラケットに入る。

冷房が建築を退化させた

伝統的なマレーの家屋(Rumah Melayu)は、高床式で床下から風を通し、急勾配の屋根で熱気を上に逃がす設計だった。窓は大きく、壁は木材で蓄熱しにくい。冷房なしで熱帯の気候を乗りこなす建築だ。

現代のコンドミニアムはこの知恵をほぼ捨てている。ガラスとコンクリートの箱に冷房を取り付ける方が安く、速く、大量に建てられるからだ。通風を考慮した設計は手間がかかる。冷房は建築の質を問わなくても快適さを提供してくれる「安い解決策」であり、結果としてマレーシアの建築から熱帯建築の知恵が消えた。

冷房病という日常

冷房の効いたオフィスで8時間働いて、外に出ると気温差15℃。この温度差が体調不良を引き起こす。マレーシアの在住日本人が「カーディガンが手放せない」と言うのは、寒い国にいるからではなく、室内が寒すぎるからだ。

ショッピングモールの冷房は特にきつい。パビリオンやミッドバレーでは室温20℃前後まで下げているフロアもある。上着なしで長時間いると確実に体が冷える。

冷房なしで暮らす人々

一方で、マレーシアの低所得層は冷房なしで暮らしている世帯が多い。扇風機と開け放した窓で夜を過ごす。公営住宅のPPR(Program Perumahan Rakyat)では冷房の電気代を払えない世帯も珍しくない。

冷房は快適さの問題であると同時に、階級の問題でもある。モールの冷房が強いのは、冷房が効いていること自体が「ここは上質な場所だ」というシグナルになっているからだ。暑さを感じないことが豊かさの証明になる社会では、冷房の温度設定は合理性ではなくステータスで決まる。

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