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マレーシアは猫の国——イスラム文化と野良猫の共生が生んだ「猫社会」

マレーシアで猫が大切にされる文化的背景、ボルネオ島クチンの「猫の街」、野良猫への餌やり習慣、ペット産業の成長を解説。

2026-05-08
クチンイスラム文化ペットマレーシア

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マレーシアに住み始めて最初に気づくのは、猫がどこにでもいること。コンビニの前、ホーカーセンターのテーブルの下、モスクの庭、コンドミニアムの駐車場。そして、誰もその猫を追い払わないことです。

イスラム教と猫——預言者ムハンマドの愛猫

マレーシアの人口の約61.3%がムスリム(マレーシア統計局、2020年国勢調査)。イスラム教において、猫は「清浄な動物(tahir)」とされています。

ハディース(預言者ムハンマドの言行録)には、ムハンマドが愛猫「ムエッザ」を大切にしていたという記録がある。猫が自分の衣の袖の上で眠っていたとき、猫を起こさないように袖を切って立ち上がった——という有名な逸話は、ムスリムの間で広く知られています。

この宗教的背景から、マレーシアでは猫を粗末に扱うことがタブー視される傾向がある。犬はイスラム法上「不浄(najis)」とされ、触れた場合に儀式的な浄化が必要とされるため、ムスリム家庭では飼わないのが一般的。結果として、マレーシアのペット文化は「猫中心」になっています。

クチン——「猫の街」を名乗る都市

ボルネオ島のサラワク州州都クチン(Kuching)。この都市の名前はマレー語で「猫」を意味します(語源には諸説あるが、猫説が最も有名)。

クチンには猫をテーマにした施設がいくつもある。

  • サラワク猫博物館(Cat Museum): 世界の猫に関する展示約2,000点。入場無料。サラワク州政府が運営
  • 猫の銅像: 市内各所に猫の銅像が点在。最も有名なのはウォーターフロント沿いの白い猫の銅像
  • 猫フェスティバル: 毎年8月に開催。猫のコスプレコンテスト、猫グッズの販売等

クチンは人口約60万人の中規模都市で、KLの喧騒とは無縁。ボルネオの自然が近く、オランウータン保護施設(セメンゴ・ワイルドライフセンター)も車で30分。「猫好きの楽園」として海外メディアで紹介されることが増え、観光客も伸びています。

野良猫の餌やり——善意と問題

マレーシアの住宅街やショッピングモールの裏口では、大量のキャットフードが地面に置かれている光景をよく見かけます。住民が自発的に野良猫に餌をやっているのです。

この習慣はイスラム教の「動物への慈悲」の教えに基づくもの。モスクの周辺には猫の餌やり場が設けられていることもあり、信仰に根差した行動です。

一方で、野良猫の過剰繁殖は社会問題にもなっている。マレーシア獣医局の推計では、国内の野良猫の数は数百万匹に達するとされ、TNR(Trap-Neuter-Return:捕獲・去勢・返還)プログラムの実施が各自治体で進められています。KL市議会は無料・低価格の去勢手術プログラムを実施していますが、野良猫の数をコントロールするには至っていません。

ペット産業の成長

マレーシアのペット産業は急成長中。市場調査会社Euromonitorによると、マレーシアのペットケア市場は2024年時点で約RM12億(約384億円)規模。中でも猫関連の支出が最も大きい。

KLにはペット用品の専門店チェーン(Pet Lovers Centre、PetSmart等)が多数出店しており、日本のペットフード(ロイヤルカナン、ヒルズ等の国際ブランド)も普通に手に入ります。猫カフェもKL市内に10軒以上。

プレミアムキャットフードの価格は、1kgあたりRM20〜80(約640〜2,560円)。日本と比べてやや安いが、マレーシアの所得水準を考えると決して安くはない。ペットにお金をかけるのは中間層以上の習慣です。

コンドミニアムとペット——管理規約の壁

マレーシアで猫を飼う場合、住居の管理規約がハードルになることがある。

多くのコンドミニアムの管理規約(House Rules)にはペットの飼育に関する条項がある。「小型ペットのみ可」「ペット不可」「登録制」など、物件ごとにルールが異なります。明示的にペット禁止のコンドミニアムでも、実際には猫を飼っている住民が多く、管理組合が黙認しているケースも少なくない。

ランデッド・ハウス(戸建て・テラスハウス)であれば、ペット制限はほぼないため、猫の多頭飼いをしたい人はランデッド物件を選ぶ傾向があります。

日本人が猫を飼う場合

マレーシアで猫を飼い始める日本人もいます。現地のシェルター(SPCA Selangor等)から保護猫を引き取るのが一般的。引き取り費用はRM100〜300(約3,200〜9,600円)で、去勢手術・ワクチン接種込み。

帰国時に猫を日本に連れて帰る場合は、マイクロチップ装着→狂犬病ワクチン接種(2回)→抗体検査→待機期間(180日以上)→AQIS(マレーシア農業検疫局)の輸出許可→日本の動物検疫所への届出、という一連の手続きが必要。最短でも7〜8ヶ月かかるので、帰国が決まったら早めに動く必要があります。

猫は、マレーシアの宗教・文化・都市生活の交差点にいる存在。猫を通して見えるマレーシアは、ガイドブックとは少し違った角度の景色です。

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