マレーシアの葬儀は3つの宗教が同じ街で同時に行われる
マレーシアの葬儀文化を多宗教の視点から解説。イスラム式、仏教式、ヒンドゥー式の違い、費用の相場、外国人が参列する際のマナー。
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マレーシアでは、同じ住宅街で同じ日にイスラム式の葬儀、中華系の道教式の葬儀、インド系のヒンドゥー式の葬儀が行われることがある。多民族・多宗教国家の日常がもっとも凝縮される場面が葬儀だ。
イスラム式(マレー系)
マレー系はほぼ全員がムスリムであり、葬儀はイスラム法に従って行われる。
- 時間: 亡くなってから24時間以内に埋葬するのが原則。可能な限り早く行う
- 手順: 遺体を洗浄(マンディ・ジェナザ)→ 白い布(カフン)で包む→ モスクまたは自宅で礼拝(ソラト・ジェナザ)→ イスラム墓地に土葬
- 土葬のみ: 火葬は禁止。遺体はメッカの方角(キブラ)に向けて埋葬される
- 服装: 白または暗い色の服。男女は別の場所で礼拝する
費用はMYR 1,000〜5,000(約32,000〜160,000円)程度。イスラム宗教庁(JAIS等)が管理する墓地を使うため、墓地の費用は比較的低い。
中華系(仏教・道教・キリスト教)
中華系の葬儀は宗教と地域の慣習が混ざり合い、最も複雑だ。
- 期間: 3〜7日間が一般的。遺族が自宅前や葬儀場にテントを張り、弔問客を迎える
- 儀式: 道士(タオイスト・プリースト)による読経、紙の家や車の模型を燃やす(冥銭と同じ発想で、あの世で使えるように)
- 火葬が主流: 中華系は火葬後に骨壺を納骨堂に安置するケースが多い
- 食事: 弔問客に食事を振る舞う。ベジタリアン料理(精進料理)を出す家庭もある
費用はMYR 10,000〜50,000(約320,000〜1,600,000円)と幅が広い。テントの設営、読経の道士、食事、棺の品質で大きく変わる。
特徴的なのは「紙の模型を燃やす」文化だ。家、車、スマートフォン、iPadの紙模型まで売られている。故人があの世で不自由しないように——という発想は、物質的な豊かさを重視する中華系の価値観を反映している。
ヒンドゥー式(インド系)
インド系の葬儀はヒンドゥー教の教えに従う。
- 時間: 亡くなってから1〜2日以内に行うのが一般的
- 火葬: ヒンドゥー教では火葬が基本。遺族の長男が火を点ける役割を担う
- 儀式: 自宅で遺体を安置し、花と線香で飾る。ブラーミン(僧侶)が祈りを捧げる
- 喪の期間: 13〜16日間。この間、遺族は肉食を避け、外出を控える
費用はMYR 3,000〜15,000(約96,000〜480,000円)程度。
外国人が参列する場合
マレーシアで仕事をしていると、同僚の家族の葬儀に参列する場面がある。宗教によってマナーが全く異なるので注意が必要。
イスラム式に参列する場合:
- 靴を脱いで入る場所がある。清潔な靴下を履いておく
- 女性はスカーフで頭を覆う(用意がなければ入口で貸してくれることが多い)
- 握手は同性のみ。異性への握手は避ける
- 「Al-Fatihah」(開端章を捧げる)と言うか、静かに黙祷する
中華系に参列する場合:
- 白い封筒に現金を包む(奇数額が一般的。MYR 50〜100程度)
- 服装は白か黒
- 焼香する(線香を立てる)
- 食事を勧められたら受ける
ヒンドゥー式に参列する場合:
- 白い服が望ましい
- 花を持参する(白い花が一般的)
- 遺体に触れたり、近づきすぎたりしない
- 帰宅前に体を清める(シャワーを浴びる)のが習慣
3つの宗教が同じ国で共存している以上、葬儀のマナーも3種類ある。どの宗教の葬儀でも共通しているのは、弔問に来ること自体が最大の礼儀であるということだ。服装やマナーに多少の間違いがあっても、来てくれたことへの感謝が先に来る。