石油・天然ガス大国マレーシアが再生可能エネルギーに舵を切り始めた理由
マレーシアのエネルギー構造と再生可能エネルギー政策を解説。ペトロナスの存在、太陽光発電の急拡大、大規模水力の是非、在住者への影響まで。
この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。
マレーシアは東南アジア有数の石油・天然ガス産出国だ。国営石油会社ペトロナス(Petronas)は世界最大級のLNG輸出企業であり、政府歳入の約20%をペトロナスからの配当・税収が占めている。化石燃料で潤っているこの国が、なぜ再生可能エネルギーに本気で取り組み始めたのか。
電力の8割が化石燃料
マレーシアの電力構成(2023年時点)は、天然ガスが約40%、石炭が約36%、水力が約18%、太陽光・バイオマス等の再エネが約6%。電力の8割近くを化石燃料に依存している。
日本(化石燃料依存度約70%)と似た構造だが、マレーシアには決定的な違いがある。自国で天然ガスを産出できるため、エネルギー安全保障上の「緊急性」が日本ほど高くない。それでも動き出したのは、別の理由がある。
ペトロナスの有限性
マレーシアの石油確認埋蔵量は約30億バレル(2023年時点)。現在の生産ペースで約15〜20年分。天然ガスも同様の時間軸で枯渇が見え始めている。
ペトロナスの収入に依存した財政構造は、資源が減るにつれて持続不可能になる。マレーシア政府が再エネに動く最大の理由は環境意識より財政の持続性だ。
National Energy Transition Roadmap(NETR)
マレーシア政府は2023年にNational Energy Transition Roadmap(NETR)を発表した。2050年までに電力の70%を再エネに転換する目標を掲げている。
特に力を入れているのが太陽光発電。マレーシアは赤道に近く、年間日照時間が長い。屋上太陽光パネルの設置を促進するNet Energy Metering(NEM)制度では、家庭で発電した余剰電力をTNB(電力公社)に売電できる。
太陽光パネル製造の拠点
あまり知られていないが、マレーシアは太陽光パネルの製造拠点でもある。世界の太陽電池セル生産量の約10%がマレーシアで製造されている。ペナン州やクダ州にFirst Solar、Hanwha Q Cells、JA Solarなどの工場がある。
「太陽光を使う側」だけでなく「作る側」でもある。製造業の雇用と再エネ普及の両方を一石二鳥で狙える立場にある。
サラワク州の大規模水力
ボルネオ島のサラワク州には大規模水力発電ダムが複数ある。バクンダム(Bakun Dam)の発電容量は2,400MWで、東南アジア最大級。ただし建設時に先住民(オラン・アスリ)の集落が水没したことで批判も受けている。
サラワク州は余剰電力をインドネシア(カリマンタン)やシンガポールに輸出する計画を進めており、「電力の輸出国」という新しい収益モデルを模索している。
在住者への影響
一般家庭の電気料金は、TNBの累進制で月200kWh以下ならKRW相当で約KRW 10,000程度と安い——もとい、MYR 0.218/kWh(約7円)からスタートし、使用量が増えると単価が上がる仕組み。
| 使用量 | 料金(1kWhあたり) |
|---|---|
| 〜200kWh | MYR 0.218(約7.0円) |
| 201〜300kWh | MYR 0.334(約10.7円) |
| 301〜600kWh | MYR 0.516(約16.5円) |
| 601kWh〜 | MYR 0.546(約17.5円) |
マレーシアの電気料金は東南アジアの中でも安い部類に入る。政府が補助金で価格を抑えている面があり、この補助金の原資の一部がペトロナスの収入だ。資源が減れば補助金も減り、電気代が上がる——再エネ転換は将来の電気代にも直結する。