Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
生活・住環境

マレーシアで断水は「年中行事」——水道インフラの脆さと備え方

マレーシアの水道インフラの実態。予告なし断水、NRW(無収水)率36%の問題、浄水場トラブル、在住者が備えるべきことを解説。

2026-05-08
断水水道インフラ生活マレーシア

この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。

マレーシアに住んでいると、蛇口をひねっても水が出ない朝がある。断水です。日本では災害時以外に経験することのない断水が、マレーシアでは定期的に起きます。

断水の頻度——年に数回は覚悟

セランゴール州・KL・プトラジャヤを管轄する水道事業者Air Selangor(エア・セランゴール)は、計画断水を年に複数回実施しています。配管の補修工事、浄水場のメンテナンス、水質検査——理由はさまざまですが、1回の断水が24〜72時間に及ぶことも珍しくない。

2023年には、セランゴール州のスンガイ・セランゴール浄水場の取水口付近で化学物質汚染が検出され、約120万世帯が最大4日間の断水を経験しました(Air Selangor公式発表)。これは極端な例ですが、年間を通じて「水道が使えない日」は確実にあります。

NRW36%——送った水の3分の1以上が届かない

マレーシアの水道インフラの根本的な問題は、NRW(Non-Revenue Water=無収水)率の高さ。NRWとは、浄水場から送り出された水のうち、利用者に届かずに失われる水の割合です。

マレーシア全国のNRW率は約36%(SPAN=国家水道サービス委員会、2023年報告)。つまり、浄水場が100リットルの水を送り出しても、36リットルは漏水・盗水・計測誤差で消える。世界銀行が推奨するNRW率の目標値は25%以下で、先進国の多くは10〜15%。日本は約6%です(厚生労働省統計)。

原因は老朽化した配管。マレーシアの都市部の水道管は1960〜80年代に敷設されたものが多く、更新が追いついていない。配管からの漏水が全NRWの大半を占めるとされています。

浄水場汚染——河川上流の問題

KL周辺の水源は主にスンガイ・セランゴール(セランゴール川)とスンガイ・ランガット(ランガット川)。この河川の上流域には、パーム油プランテーション、ゴム加工場、鉱山、そして不法投棄の現場があります。

上流で化学物質や有害物質が流出すると、浄水場の取水が停止し、下流域が一斉に断水になる。この構造的な問題は繰り返し発生しており、2020年〜2024年だけでも大規模な水質汚染による断水が複数回起きています。

マレーシア政府は河川汚染の取り締まりを強化していますが、監視の目が届かない上流域での不法投棄は完全にはなくなっていません。

水道料金は安い——だからインフラ投資が進まない

マレーシアの水道料金は非常に安い。セランゴール州の家庭向け水道料金は、月20立方メートルまでRM0.57/m3(約18円/m3)。日本の平均(約200円/m3)の10分の1以下です。

20m3を超えるとRM1.03/m3、35m3を超えるとRM2.07/m3と段階的に上がりますが、一般的な家庭の月額水道料金はRM10〜30(約320〜960円)程度。

この低価格は政治的に維持されている。水道料金の値上げは有権者の反発を招くため、政治家が値上げに消極的。結果として水道事業者の収入が不足し、インフラの更新投資に回す資金が足りない——という悪循環に陥っています。

在住者の断水対策——3つの備え

マレーシアに住むなら、断水への備えは必須。以下は在住日本人の間で共有されている対策です。

1. 貯水タンクの確認

コンドミニアムの場合、建物の屋上に貯水タンク(Roof Tank)が設置されているか確認する。貯水タンクがあれば、断水が始まっても12〜24時間程度は水が使えます。古いコンドミニアムや戸建て(テラスハウス)には貯水タンクがないことがあるので、入居前に確認を。

2. 飲料水のストック

マレーシアの水道水はそのまま飲めない(WHO基準の水質を満たしているが、配管の老朽化による二次汚染リスク)。在住者の多くはウォーターディスペンサー(月額RM60〜120、約1,920〜3,840円)を契約するか、ペットボトルの水を購入しています。断水時に備えて、最低でも2日分(1人あたり6〜10リットル)のストックを常備するのが安全です。

3. Air Selangorアプリの通知設定

Air SelangorはスマートフォンアプリとX(旧Twitter)で断水情報を配信しています。計画断水の場合は通常2〜3日前に告知されるので、アプリの通知をオンにしておくことで事前に備えられます。非計画断水(緊急断水)は予告なしですが、復旧見込みの情報がリアルタイムで更新されます。

断水時の生活——実際にどうなるか

断水中は、トイレの水が流せない、シャワーが使えない、洗濯ができない、料理ができない——生活のほぼ全てが止まります。

対処法として、バスタブや大型バケツに水を貯めておく家庭が多い。マレーシアのコンドミニアムにはバスタブがない物件が多いので、その場合は大型のゴミバケツ(60〜100リットル)を1〜2つ用意しておく。

長期の断水時には、Air Selangorが給水車(Water Tanker)を出動させます。コンドミニアムのロビーや近隣の公共施設で給水が行われますが、行列ができるため、容器を持って早めに並ぶ必要がある。

日本から来ると、「水道は当たり前に出るもの」という感覚が覆される経験です。マレーシアの水道料金が安いのは確かですが、その「安さ」の代償として、インフラの脆さを受け入れる必要がある。蛇口をひねって水が出ることの価値を、断水のたびに思い知らされます。

コメント

読み込み中...