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食文化と日本食事情

ペナンのホーカー文化が消滅する日——世界遺産の街で屋台が生き残れない経済構造

ペナンのホーカー(屋台)文化は観光の目玉でありながら、高齢化・後継者不足・観光地価格で変質しつつあります。ペナンの食文化の現在地を分析します。

2026-05-31
ペナンホーカー屋台食文化世界遺産

この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。

ペナンの炒粿條(チャークイティオ)は、ひとり分RM8〜12(約256〜384円)で食べられる。60代の屋台主人が巨大な中華鍋を振り、海老と卵と平たい米麺を強火で炒める。この味は30年変わっていないが、作る人の年齢は30年分だけ上がった。

ペナンの有名ホーカーの多くが60〜70代だ。後継者がいない店は、主人の引退とともに消える。ペナン州政府の調査によると、ジョージタウン中心部のホーカーの約40%が後継者不在と回答している。

なぜ後継者がいないのか

答えは収入だ。ホーカーの月収は地域と人気度によるが、RM3,000〜6,000(約96,000〜192,000円)程度。朝4時に起きて仕込み、夕方まで働く。週休は1日。

対してKLやペナンの企業に就職すれば、大卒初任給でRM3,000〜4,000(約96,000〜128,000円)。エアコンのあるオフィスで9時〜18時。親が「子どもには楽をさせたい」と考えるのは自然だ。

観光地化の影響

ジョージタウンが2008年にUNESCO世界文化遺産に登録されてから、ペナンの屋台文化は変質した。

  • 家賃の高騰: 世界遺産エリアの屋台スペースの賃料が上昇。一部の有名屋台はKopi Tiam(コーヒーショップ)からフードコートに移転した
  • 観光客向け価格: 観光客が集まる屋台は値段が上がり、地元民が敬遠するようになった
  • SNS映え重視: 味より見た目を優先する新しい屋台が参入し、伝統的な味が薄れる傾向がある

それでもペナンで食べるべきもの

ペナンの食文化はまだ生きている。在住日本人が通う屋台は観光ガイドに載らない場所にあることが多い。

  • 炒粿條(Char Kway Teow): 平たい米麺の炒め物。ラードで炒める伝統的な作り方は健康上の理由で減少傾向にある。「ラード使用」と明記している店は、味にこだわっている証拠
  • アッサムラクサ(Assam Laksa): 酸味のある魚ベースのスープ麺。ペナン以外ではほぼ食べられない地域限定料理
  • ロジャック(Rojak): 果物と野菜のサラダにエビペーストソースをかけたもの。見た目は悪いが中毒性がある
  • 蠔煎(Oyster Omelette): 牡蠣入りの卵焼き。澱粉でとろみをつけた独特の食感

食文化の保存は可能か

ペナン州政府は「Heritage Food」プログラムを通じて、伝統的なレシピの記録と若手育成に取り組んでいる。しかし政策で味は守れない。30年かけて身体に染み込んだ火加減と手の動きは、レシピには書けない。

在住者としてできることは、通い続けることだ。地元の常連客がいなくなった屋台から順に閉店していく。RM8の炒粿條を食べに行くことが、小さな保存活動になる。

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