Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
文化・社会構造の分析

国民車プロトンが走り続ける理由——マレーシアの自動車産業と関税の政治経済学

マレーシアの国民車メーカーProtonとPerodua。なぜ輸入車に高い関税をかけてまで国産車を守るのか。自動車関税が在住日本人の生活費に与える影響を分析します。

2026-05-31
プロトン自動車関税マハティール産業政策

この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。

マレーシアでトヨタ・カローラを買うと、日本の約2倍の価格になる。RM130,000〜160,000(約416万〜512万円)。日本では200万〜280万円で買えるクルマが、関税と物品税で跳ね上がる。

一方、マレーシアの国民車Perodua Myvi(ペロドゥア・マイヴィ)はRM46,000〜58,000(約147万〜186万円)。この価格差が、マレーシアの道路を国産車で埋め尽くしている理由だ。

国民車プロジェクトの歴史

1983年、マハティール首相(当時)が国民車構想を発表。1985年にProtonがSagaを発売した。三菱自動車からの技術移転で始まったプロジェクトは、マレーシアの工業化の象徴として位置づけられた。

1993年にはPerodua(Perusahaan Otomobil Kedua = 第二国民車メーカー)が設立。ダイハツとの合弁で、より小型・低価格の車両を生産した。

2017年以降、Protonは中国・吉利汽車(Geely)の出資を受けてSUV「X50」「X70」を投入。Peroduaはダイハツとの提携を継続し、マレーシアの新車販売台数の約40%を占めている。

関税構造

マレーシア政府は輸入車に対して以下の税を課している。

税種輸入車(CBU)国産車
輸入関税30%0%
物品税(Excise Duty)65〜105%0〜25%
売上税(SST)10%10%

輸入関税30% + 物品税65〜105%で、輸入車の価格はほぼ倍になる。この価格差が、国産車の競争力を人工的に維持している。

在住日本人の車事情

KLでは公共交通機関(MRT、LRT、モノレール)が整備されつつあるが、郊外に住む場合は車が必須。多くの在住日本人は以下の選択肢から選んでいる。

  • Perodua Myvi / Axia: 最も安い新車。日常の足として十分。ただしパワー不足を感じる人もいる
  • Proton X50: Geelyのプラットフォームで品質が向上。SUVとしてはコスパが良い。RM86,000〜(約275万円〜)
  • 中古の日本車: トヨタ・ヴィオスやホンダ・シティの3〜5年落ちがRM50,000〜80,000(約160万〜256万円)
  • 新車の日本車: 予算に余裕があれば。ただし日本の1.5〜2倍の価格

車を持たない選択肢

KL中心部に住み、Grab(配車アプリ)で移動する方法もある。Grabの料金はRM10〜30(約320〜960円)で市内の大半をカバーできる。月に50回乗っても、車の維持費(ローン+保険+ガソリン+駐車場)より安くなるケースがある。

ただしGrabは通勤時間帯や雨の日にサージプライシング(割増料金)が発生し、捕まらないこともある。「車を持たない生活」がストレスなく成立するのはKLCC周辺、ブキッビンタン、モントキアラなど限られたエリアだ。

自動車関税が下がれば日本車が安くなるが、Proton・Peroduaの従業員約1万人とサプライチェーンの雇用が危機に陥る。この政治的トレードオフが、マレーシアの自動車政策を30年以上縛っている。

コメント

読み込み中...