国民車プロトンが走り続ける理由——マレーシアの自動車産業と関税の政治経済学
マレーシアの国民車メーカーProtonとPerodua。なぜ輸入車に高い関税をかけてまで国産車を守るのか。自動車関税が在住日本人の生活費に与える影響を分析します。
この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。
マレーシアでトヨタ・カローラを買うと、日本の約2倍の価格になる。RM130,000〜160,000(約416万〜512万円)。日本では200万〜280万円で買えるクルマが、関税と物品税で跳ね上がる。
一方、マレーシアの国民車Perodua Myvi(ペロドゥア・マイヴィ)はRM46,000〜58,000(約147万〜186万円)。この価格差が、マレーシアの道路を国産車で埋め尽くしている理由だ。
国民車プロジェクトの歴史
1983年、マハティール首相(当時)が国民車構想を発表。1985年にProtonがSagaを発売した。三菱自動車からの技術移転で始まったプロジェクトは、マレーシアの工業化の象徴として位置づけられた。
1993年にはPerodua(Perusahaan Otomobil Kedua = 第二国民車メーカー)が設立。ダイハツとの合弁で、より小型・低価格の車両を生産した。
2017年以降、Protonは中国・吉利汽車(Geely)の出資を受けてSUV「X50」「X70」を投入。Peroduaはダイハツとの提携を継続し、マレーシアの新車販売台数の約40%を占めている。
関税構造
マレーシア政府は輸入車に対して以下の税を課している。
| 税種 | 輸入車(CBU) | 国産車 |
|---|---|---|
| 輸入関税 | 30% | 0% |
| 物品税(Excise Duty) | 65〜105% | 0〜25% |
| 売上税(SST) | 10% | 10% |
輸入関税30% + 物品税65〜105%で、輸入車の価格はほぼ倍になる。この価格差が、国産車の競争力を人工的に維持している。
在住日本人の車事情
KLでは公共交通機関(MRT、LRT、モノレール)が整備されつつあるが、郊外に住む場合は車が必須。多くの在住日本人は以下の選択肢から選んでいる。
- Perodua Myvi / Axia: 最も安い新車。日常の足として十分。ただしパワー不足を感じる人もいる
- Proton X50: Geelyのプラットフォームで品質が向上。SUVとしてはコスパが良い。RM86,000〜(約275万円〜)
- 中古の日本車: トヨタ・ヴィオスやホンダ・シティの3〜5年落ちがRM50,000〜80,000(約160万〜256万円)
- 新車の日本車: 予算に余裕があれば。ただし日本の1.5〜2倍の価格
車を持たない選択肢
KL中心部に住み、Grab(配車アプリ)で移動する方法もある。Grabの料金はRM10〜30(約320〜960円)で市内の大半をカバーできる。月に50回乗っても、車の維持費(ローン+保険+ガソリン+駐車場)より安くなるケースがある。
ただしGrabは通勤時間帯や雨の日にサージプライシング(割増料金)が発生し、捕まらないこともある。「車を持たない生活」がストレスなく成立するのはKLCC周辺、ブキッビンタン、モントキアラなど限られたエリアだ。
自動車関税が下がれば日本車が安くなるが、Proton・Peroduaの従業員約1万人とサプライチェーンの雇用が危機に陥る。この政治的トレードオフが、マレーシアの自動車政策を30年以上縛っている。