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テタリックを1日5杯飲む国——マレーシアの紅茶文化は「引っ張る」ことで完成する

マレーシアの国民的飲料テタリック(Teh Tarik)の文化を解説。なぜ引っ張るのか、ママックでの飲み方、紅茶の注文体系、在住日本人の日常。

2026-05-09
テタリック紅茶ママックコピティアム食文化

この記事の日本円換算は、1MYR≒32円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(MYR)の金額を基準にしてください。

マレーシアのママック(インド系ムスリムの屋台食堂)に入ると、店員が2つのカップを使って紅茶を高い位置から注ぎ合っている光景に出会う。液体が空中で弧を描き、泡立ちながらカップに落ちる。これがテタリック(Teh Tarik)——直訳すると「引っ張った紅茶」だ。

なぜ引っ張るのか

テタリックの「タリック(tarik)」はマレー語で「引く」を意味する。紅茶とコンデンスミルクを2つの容器間で何度も注ぎ合わせることで、空気を含ませて泡立てる。この工程で3つの変化が起きる。

  1. 温度が下がる: 熱い紅茶が空気に触れて飲みやすい温度になる
  2. 混合が均一になる: コンデンスミルクと紅茶が完全に混ざる
  3. 泡が立つ: クリーミーな泡が表面にできる

スプーンで混ぜるだけでは出ない、滑らかな口当たり。これがテタリックの本質だ。

紅茶の注文体系

マレーシアの紅茶の注文は独自のコード体系がある。「テ(Teh)」を基本に、追加の指定で甘さ・温度・ミルクの種類が変わる。

注文意味
Teh紅茶+コンデンスミルク(甘い)
Teh O紅茶+砂糖(ミルクなし)
Teh C紅茶+エバミルク(甘さ控えめ)
Teh Tarik引っ張った紅茶+コンデンスミルク
Teh O Ais紅茶+砂糖+氷(アイス)
Teh O Ais Limau紅茶+砂糖+氷+ライム
Teh Kosong紅茶のみ(砂糖もミルクもなし)

「Teh C Peng Kurang Manis」と言えば「エバミルク入り・氷あり・甘さ控えめ」。最初は呪文に聞こえるが、2〜3週間で自然に口から出るようになる。

ママックとコピティアム

テタリックが飲める場所は主に2つ。

ママック: インド系ムスリムが経営する食堂。24時間営業の店が多い。テタリックの本場で、ロティチャナイ(パン)と一緒に飲むのが定番。1杯MYR 1.80〜3.00(約58〜96円)。

コピティアム: 中華系のコーヒーショップ。こちらは紅茶よりコーヒー(Kopi)が主役だが、Tehも注文できる。MYR 2.00〜3.50(約64〜112円)。

ママックのテタリックとコピティアムのテタリックは微妙に味が違う。ママックの方がスパイス感が強く、コピティアムの方があっさりしている傾向がある。

砂糖の量

マレーシアのテタリックは甘い。コンデンスミルク自体が砂糖たっぷりなので、1杯あたり砂糖換算で20〜30g入っている。世界保健機関(WHO)が推奨する1日の遊離糖摂取量上限が25gだから、1杯で1日分に到達する。

マレーシアの糖尿病有病率は成人の約18.3%(International Diabetes Federationの推計)。東南アジアで最も高い水準だ。テタリックだけが原因ではないが、1日3〜5杯の甘い飲み物を毎日飲む習慣は無関係ではない。

「Kurang Manis(甘さ控えめ)」と注文すれば砂糖を減らしてくれる。ただし「控えめ」の基準がマレーシア基準なので、日本人の感覚ではまだ甘い。本当に甘さを抑えたいなら「Teh O Kosong」(砂糖なし・ミルクなし)が確実だ。

テタリック競技会

マレーシアにはテタリックの注ぎ技術を競う大会がある。どれだけ高い位置から注げるか、泡のきめ細かさ、パフォーマンスの美しさを審査する。マレーシアの独立記念日やフードフェスティバルで開催される。

注ぎ手は「Teh Tarik Man」と呼ばれ、腕のいい注ぎ手がいる店は客が集まる。同じ茶葉、同じミルクでも、注ぎ方で味が変わる。テタリックは「淹れる」ではなく「演じる」飲み物だ。

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