青い菓子は着色料ではない——マレーシアのクエが植物の色でできている話
マレーシアの伝統菓子クエは鮮やかな青や緑をしているが、その多くは植物由来の色。バタフライピーやパンダンが果たす役割と、菓子文化の構造を読み解く。
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市場の菓子売り場に、蛍光ペンのような青が並んでいます。日本の和菓子の淡い色調とは、まったく別の世界です。
初めて見た人は、着色料が強いのだろうと考えます。実際にはその多くが、乾いた花を湯に浸して出した色です。
青の正体
クエ(kuih)と総称されるこの国の伝統菓子で、青を出すのに使われるのがバタフライピー(bunga telang)です。アジアンピジョンウィングとも呼ばれる豆科の花で、乾燥させて湯に浸すと、鮮烈な青色が出ます。
この青は、アントシアニン系の色素によるものです。面白いのは、酸を加えると色が変わる点です。ライムやレモンを絞ると、青から紫、さらに赤みがかった色へと移っていく。理科の実験のリトマス反応が、そのまま台所で起きます。
ナシケラブ(nasi kerabu)という青いご飯の料理も、同じ花で色をつけています。米が青いのは視覚的にかなり異様ですが、味そのものには大きな影響がありません。色を食べる文化、と言ってもいいかもしれません。
緑と、香りの主役
緑を担うのがパンダン(pandan)です。細長い葉を持つ植物で、絞った汁で色をつけると同時に、独特の甘い香りが加わります。
マレーシアやシンガポール、タイの菓子で「なんとも言えない良い香り」がするとき、その正体はたいていパンダンです。バニラに似ているとも、炊きたての米に似ているとも言われますが、どちらとも違う。
この植物は色と香りを同時に提供するので、菓子作りにおける役割が大きい。ケーキ、餅、ゼリー、ご飯——用途は非常に広い。日本で言えば、抹茶が色と味と香りを同時に担っているのと似た位置づけです。
白と茶色を作るもの
菓子の土台になるのは、ココナッツミルク(santan)です。これが白のコクを作り、口当たりを重くします。
そして茶色を作るのが、ヤシ糖です。グラマラッカ(gula melaka)と呼ばれる、ココヤシやアレンヤシの花序から採った樹液を煮詰めた砂糖で、白砂糖とは風味が全然違います。カラメルに似た香ばしさと、独特の深みがある。
つまりマレーシアの菓子は、多くの場合この四要素で構成されています。米粉やもち米を土台に、ココナッツミルクでコクを、ヤシ糖で甘さと香りを、そして植物の色素で見た目を作る。乳製品も、精製された白砂糖も、必須ではありません。
なぜ「一口サイズ」なのか
クエの多くは、小さく作られています。一口か二口で終わるサイズ。
これには実務的な理由があります。ココナッツミルクを多く使う菓子は、熱帯の気温では日持ちしません。作ったその日に食べ切ることが前提で、量産して保管する発想と相性が悪い。
そして小さいことで、複数の種類を並べられます。市場の菓子売り場には、十数種類が同時に並ぶのが普通です。客はそこから数個ずつ選ぶ。一種類を大量に売る商売ではなく、多品種を少量ずつ回す商売になっています。
これは屋台の経済とも噛み合っています。大量の在庫を抱えず、朝作って夕方までに売り切る。冷蔵設備への依存が低い。熱帯の食品流通が、菓子の形そのものを決めているわけです。
祝祭のたびに登場する
クエは日常のおやつであると同時に、祝祭の必需品でもあります。祝祭日に家を開けて誰でも招き入れるオープンハウスの日、リビングの低いテーブルには菓子の缶が何段も積まれます。旧正月には中華系の菓子が、ディーパバリにはインド系の菓子が加わる。
面白いのは、これらが混ざり合ってきた点です。マレー系の菓子に中華系の技法が入り、インド系の甘味にココナッツが使われる。境界がはっきりしないまま、それぞれの家庭で定着している品目がある。
在住者として市場を歩くとき、この混ざり具合を意識すると見え方が変わります。「マレーシアの菓子」というひとつのカテゴリがあるというより、複数の系統が同じ棚に並んで、少しずつ影響し合った結果が今の光景です。
買うときの実際
市場や専門店では、透明なケースに並んだ菓子をトングで選び、薄いビニール袋か紙の箱に入れてもらいます。値段は一個単位で、数個買っても会計は小額で済みます。売り場に値札がないことも多いので、種類ごとの単価は聞いたほうが速い。
甘さは日本の菓子よりはっきり強いものが多いので、最初は一種類ずつ試すのが無難です。特にヤシ糖を効かせたものは、甘さの密度が高い。
そして買った日のうちに食べること。ココナッツミルクを使ったものは、翌日には風味が落ちます。冷蔵庫に入れると、もち米の食感が硬くなって別物になります。買う量は、その日に食べ切れる数までにしておくと失敗しません。
手をかける側のコスト
もっとも、植物から色を出すのは手間のかかる作業です。
花を乾かし、湯に浸し、色が出るのを待つ。葉を刻んで絞り、繊維をこす。ヤシ糖は樹液を集めて煮詰める工程がある。合成着色料を数滴垂らすのに比べれば、比較にならない工数です。
だから市場のクエは、多くの場合、大量生産の菓子ではありません。朝作って、その日に売り切る。葉を皿の代わりに使う食堂と同じで、熱帯の食の商売は保存ではなく回転で成り立っています。作り手が近くにいるから、色が植物のままでいられる。
色が語っていること
食品の色は、たいてい二つのどちらかです。素材そのものの色か、後から加えた色か。近代の食品産業は後者を発達させ、安定した鮮やかさを手に入れました。
マレーシアの菓子は、前者をかなりの部分で保っています。花を煮出し、葉を絞り、樹液を煮詰める。手間はかかるし、色は季節や素材によってぶれます。
でもそのぶん、色に情報が残っています。青ければ、どこかにバタフライピーの花が咲いていた。緑ならパンダンの葉があった。茶色ならヤシの木があった。菓子の見た目が、そのまま産地の植生の目録になっている。
市場の菓子売り場は、そう思って眺めると、色見本ではなく植物図鑑に見えてきます。