Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
住宅

アムステルダムの不動産価格はなぜ東京より高いのか——都市密度と規制の経済学

アムステルダム中心部の不動産価格は㎡あたり9,000〜12,500EUR。賃貸の空室率は2%以下。東京との比較から見える、都市の価格形成メカニズムを分析。

2026-05-01
不動産住宅価格アムステルダム家賃住宅危機

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

アムステルダム中心部の不動産価格は、㎡あたり9,000〜12,500EUR(144〜200万円)。東京23区の平均が㎡あたり約100〜120万円であることを考えると、アムステルダムの方が高い。人口約92万人の都市が、人口1,400万人の東京より㎡単価で上回る。この逆転はどう説明できるのか。

供給の絶対量が足りない

アムステルダムの賃貸市場では、四半期あたり約2,500件の物件が出る。2025年の家賃規制法(Wet Betaalbare Huur)導入前は約7,000件あった。規制により賃貸に出すメリットが薄れ、投資家がマーケットから撤退した結果、供給が3分の1に減った。

空室率は実質2%以下。物件が掲載されると24〜48時間で申し込みが殺到する。1LDKの家賃は月1,900EUR(約30万円)が平均。スタジオ(ワンルーム)でも1,600EUR(約26万円)。東京の渋谷や港区の相場と同水準か、やや上だ。

東京との構造的な違い

東京の不動産市場がアムステルダムより「安い」理由は、供給にある。東京は年間約14万戸の新築住宅が供給される(2023年、国土交通省)。建て替えが活発で、古い建物が次々と取り壊される。

アムステルダムでは、運河沿いの17世紀の建物は文化遺産として保護されており、取り壊して高層ビルを建てることができない。新規開発はアイ湾(IJ)周辺や郊外に限られる。都市の「器」が物理的に広がらない。

もう一つの要因は、土地の取得構造だ。アムステルダム市は市内の土地の大部分を所有しており、一般的に土地は売買されず、長期リース(erfpacht)で供給される。市が土地の放出量をコントロールしているため、民間の大規模開発が起きにくい。

価格を押し上げる要因

国際企業の集積。 ヨーロッパのIT企業、金融機関のHQが集中しており、高所得の外国人労働者が流入し続けている。Booking.com、Adyen、TomTomなどのテック企業が本社を置く。

EU域内の自由移動。 EU市民はビザなしでオランダに住めるため、南欧や東欧からの移住者が一定数いる。

低金利の残響。 2022年以前の超低金利時代に住宅価格が急騰し、その水準が定着してしまった。2025年以降は金利が上昇したが、価格は7%前後の上昇を続けている。

住宅規制という皮肉

オランダ政府は住宅問題に対して規制で対応してきた。家賃上限の設定、社会住宅の比率維持、投資家への税制強化。

しかし規制が強まるほど投資家が撤退し、供給が減り、結果として自由市場の家賃が上がるという皮肉が起きている。「手頃な住宅を守る」規制が、「手頃な住宅を減らす」結果を生んでいる。

郊外という選択肢

アムステルダム市内にこだわらない場合、ハーレム(電車15分)、ライデン(電車30分)、ユトレヒト(電車25分)で家賃は月300〜500EUR下がる。2LDKで1,400〜1,800EUR(22〜29万円)程度。

アムステルフェーンは日本人コミュニティが大きく、日本人学校やアジアスーパーへのアクセスが良い。アムステルダム中心部への通勤はトラムで30〜40分だ。

都市の不動産価格は、その都市の「希少性」を数値化したものだ。アムステルダムが東京より高いのは、アムステルダムが東京より良い都市だからではなく、アムステルダムの方が「拡張できない」からだ。価格は品質ではなく制約を反映する——という視点で見ると、世界の不動産市場の読み方が少し変わるかもしれない。

コメント

読み込み中...