ズワルテ・ピート改革のその後|オランダが「伝統」を変えるまでの10年
オランダの年末行事シンタクラースの従者ズワルテ・ピート(黒いピート)。人種差別批判を受けて変化が進む。煤ピートへの移行は全国に広がったのか、現在地を追う。
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毎年11月中旬、シンタクラース(聖ニコラウス)がオランダに「到着」する。蒸気船でスペインからやって来るという設定で、全国中継のイベントだ。問題は彼の従者、ズワルテ・ピート(Zwarte Piet)の外見にある。
顔を黒く塗り、赤い唇を強調し、アフロのカツラにピアス。2010年代に入って「これは黒人の風刺ではないか」という批判が国際的に広がった。
「煤で汚れた」ピートへの移行
2014年、国連の人種差別問題に関する作業部会がズワルテ・ピートに懸念を表明。オランダ社会は激しく分断された。「伝統を守れ」派と「差別を止めろ」派の対立は、Facebook上での大規模な論争に発展し、オランダ史上最大のSNS論争とも言われた。
転機は2016年。全国放送のシンタクラース到着イベントで、ズワルテ・ピートが「Roetveegpiet(煤ピート)」に変更された。顔全体を黒く塗るのではなく、煙突を通った煤の跡だけが顔につく、というデザインだ。
地域差は残る
アムステルダムやロッテルダムなどの大都市では煤ピートへの移行がほぼ完了した。学校のイベントや企業の行事でも、黒塗りピートはほとんど見られなくなっている。
一方、南部や地方都市では従来型のズワルテ・ピートが残っている地域もある。特にリンブルフ州やブラバント州では「うちの伝統を外から変えるな」という反発が根強い。地域のボランティア団体が運営するシンタクラース行事は、全国放送のルールに縛られないため、変更が遅れやすい。
2025年時点で、全国の90%以上のシンタクラースイベントが煤ピートに移行したと推定されるが、完全な移行にはまだ数年かかるだろう。
在住日本人から見ると
この問題は在住日本人の間でも意見が分かれる。「子供が楽しんでいるなら問題ないのでは」と感じる人もいれば、「顔を黒く塗ること自体に違和感がある」という人もいる。
オランダで子育てをしている場合、11月に学校から「シンタクラースイベントのボランティア募集」が来ることがある。ピートの衣装を着る役だ。煤ピートの場合は顔に数本の黒い線を引くだけなので、外見上のインパクトは大きく変わっている。
「伝統」は変わるもの
ズワルテ・ピート論争が示したのは、「伝統」という言葉の重さと危うさだ。「昔からこうだった」は変えない理由にはならないが、「昨日までこうだった」ものを一夜で変えることもできない。
シンタクラースの祭り自体は存続している。子供たちは靴にニンジンを入れて窓辺に置き、翌朝プレゼントを見つけて喜ぶ。お菓子のペパーノーテン(pepernoten)はスーパーで9月から売り始める。
変わったのはピートの見た目だけだ。変わらないのは、12月5日の夜に家族で集まってプレゼントを交換する、その時間の温かさだ。