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子どもを木箱に入れて走る国——オランダの「バクフィーツ」育児が合理的すぎる

オランダの街中を走る、前方に木箱が付いた三輪自転車「バクフィーツ(Bakfiets)」。子ども2〜3人を乗せて保育園の送迎をするこの乗り物が、なぜオランダでは自動車より合理的なのかを構造的に解説します。

2026-05-11
バクフィーツ子育て自転車

この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

アムステルダムの朝8時。保育園の前に並ぶのは自動車ではなく、前方に巨大な木箱が付いた三輪自転車です。箱の中には子ども2人と犬1匹。母親がペダルを漕いで走り去り、次の三輪自転車が到着する。

バクフィーツ(Bakfiets)——直訳すると「箱自転車」。オランダの子育て世帯の約25%が所有しているとされるこの乗り物(CBS推計)は、日本人の目には異様に映りますが、オランダのインフラの中では完璧に合理的な選択肢です。

バクフィーツの構造

バクフィーツには大きく分けて2つのタイプがあります。

  • 二輪型(Two-wheeler): 前輪の上に箱が付いた構造。軽量で速い。子ども1〜2人向け。Babboe社やUrban Arrow社が代表メーカー
  • 三輪型(Three-wheeler): 前方に二輪、後方に一輪。安定性が高く、子ども3〜4人を乗せられる。Babboe Big、Nihola社など

価格帯は、非電動で1,500〜3,000EUR(約240,000〜480,000円)、電動アシスト付きで3,000〜6,000EUR(約480,000〜960,000円)。Urban Arrow Family(電動)は約5,000EUR(約800,000円)で、アムステルダムの子育て世帯に最も人気のあるモデルのひとつです。

日本のママチャリが3〜10万円程度であることを考えると高額ですが、オランダでは「2台目の自動車を買う代わりにバクフィーツを買う」という意思決定が普通に成り立つ。

なぜ自動車ではなくバクフィーツなのか

アムステルダムで自動車を持つコストを計算してみます。

  • 駐車場(市内): 月額300〜600EUR(約48,000〜96,000円)
  • 路上駐車パーミット: 区域により年額200〜600EUR(約32,000〜96,000円)
  • 保険: 月額約80〜150EUR(約12,800〜24,000円)
  • 燃料/充電: 月額約100〜200EUR(約16,000〜32,000円)

合計すると、自動車の維持費だけで月額500〜1,000EUR以上。さらに、アムステルダム中心部は一方通行と駐車制限の迷路で、保育園への送迎に自動車を使うと自転車の2〜3倍時間がかかることも珍しくない。

バクフィーツなら維持費はほぼゼロ(年1回の整備で50〜100EUR程度)、駐車は自宅前の歩道、渋滞もなし。

自転車インフラが支える育児

オランダの自転車専用道路(fietspad)の総延長は約37,000km(Fietsberaad公表値)。国道の総延長が約3,000kmなので、自転車専用道の方が10倍以上長い。

この自転車インフラがバクフィーツ育児を成り立たせています。交差点には自転車用の信号があり、橋には自転車用のスロープがあり、保育園や学校には自転車用の駐輪スペースが広く確保されている。バクフィーツが通れる幅を前提に道路が設計されている。

逆に言えば、この自転車インフラがなければバクフィーツ育児は成り立たない。日本の道路でバクフィーツを走らせようとしたら、歩道は狭すぎ、車道は危険すぎ、駐輪場にも入らない。

雨の日はどうするのか

オランダは年間降雨日数が約130日。「雨の日はどうするのか」は当然の疑問です。

答えは「濡れる」。

箱の上にレインカバー(huif)を被せれば子どもは濡れませんが、漕いでいる親は普通に濡れます。オランダ人はこれを「Er is geen slecht weer, alleen verkeerde kleding(悪い天気はない、間違った服装があるだけ)」の一言で片付けます。防水ジャケットを着て、レインパンツを履いて、漕ぐ。

在住日本人にとっては最初のハードルですが、3ヶ月もすると慣れます。

アムステルダムでは年間約6〜8万台の自転車が盗まれており(Politie Amsterdam発表)、バクフィーツも例外ではありません。ART認証のU字ロック(50〜100EUR)+盗難保険(年額100〜200EUR)が基本装備です。

木箱の中の合理性

子どもを木箱に入れて自転車で走る。文章にすると不安になりますが、実際にアムステルダムの朝の送迎風景を見ると、これ以上合理的な方法はないと感じます。

平坦な地形、充実した自転車専用道、高すぎる自動車維持費——すべての条件が「箱自転車」を最適解に押し上げている。この国で子育てをするなら、バクフィーツは「あると便利」ではなく「ないと不便」な乗り物です。

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