オランダのBox 1/2/3税制——所得の種類で税率がまるで違う仕組み
オランダの所得税は3つのBoxに分類され、給与・株式配当・資産それぞれに異なる税率が適用されます。日本人駐在員・移住者が知っておくべきBox税制の仕組みと注意点を解説。
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オランダの所得税には「Box」という概念がある。所得を3つの箱に分け、箱ごとに税率が変わる。日本の総合課税に慣れた人には直感に反する仕組みだが、理解すると「なぜオランダに富裕層が集まるのか」が見えてくる。
Box 1: 給与・年金・住宅(累進課税)
Box 1には給与所得、年金所得、持ち家の帰属所得が入る。税率は累進で、2025年時点では約€75,518以下が36.97%、それを超える部分が49.50%。日本の最高税率45%(住民税込みで55%)と比べると、高所得者にとっては意外と近い水準だ。
ただし、30%ルーリング(30%-ruling)の適用を受けている駐在員や高度技能移民は、Box 1の給与の30%が非課税になる。実質的な税率が大きく下がるため、この制度の有無が手取りに直結する。
Box 2: 株式の実質的持分(配当・売却益)
自分が5%以上の株式を保有する会社からの配当金や売却益がBox 2に入る。税率は2025年時点で€67,000までが24.5%、それを超える部分が33%。
日本のオーナー経営者が自社から配当を受け取る感覚に近い。BV(有限会社)を設立して事業を行うフリーランスや起業家は、Box 2の税率を意識して報酬の取り方を設計することになる。
Box 3: 貯蓄・投資資産(みなし収益課税)
ここがオランダ税制の最も特異な部分だ。Box 3は預金・株式・不動産(持ち家以外)などの資産に対して、実際の運用益ではなく「みなし収益」に課税する。2025年からは資産の種類ごとにみなし収益率が設定され、税率は36%。
つまり、株で損をしていても課税される可能性がある。逆に、預金のみなし収益率は低いため、銀行に預けているだけなら税負担は軽い。この仕組みは長年議論の的で、最高裁判決(Kerstarrest, 2021年)で「実際の収益を大幅に超えるみなし課税は違法」と判断されて以来、制度の見直しが続いている。
日本人が特に気をつける点
日本の証券口座: オランダに移住しても日本に証券口座を持っている場合、その資産はBox 3の対象になる。申告漏れは罰則の対象だ。
持ち家のローン控除: Box 1で住宅ローンの利息が控除できる仕組みがあるが、適用条件が細かい。特に30%ルーリング適用者は選択制になるため、どちらが有利か試算が必要になる。
確定申告: オランダの確定申告はオンライン(Mijn Belastingdienst)で行う。3つのBoxを自分で分類して入力する必要があるため、初年度は税理士(belastingadviseur)に依頼する人が多い。
税の仕組みを見ると、その国が何を奨励し、何に課税したいのかが透ける。オランダのBox制度は「働いて稼ぐ所得」と「資産から生まれる所得」を明確に区別し、それぞれに最適な税率をあてるという設計思想だ。合理的だが、Box 3のみなし課税のように理論と現実がぶつかる部分も残っている。