オランダ人はなぜ「会議のための会議」を開くのか
オランダの職場では、小さな決定でも全員の合意が必要とされる。ポルダーモデルの職場版ともいえるこの文化は、効率の敵なのか、それとも別の価値を生んでいるのか。
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アムステルダムの多国籍企業に転職して最初の週、ある日本人は困惑した。「来週の会議の議題を決めるためのミーティングをしよう」と言われたからだ。
会議のための会議。日本の大企業にも存在するこの現象が、オランダでは別の論理に基づいている。
「全員が知っている」ことの価値
日本の会議文化は「根回し」を前提にしていることが多い。会議の前に関係者に話を通し、本番では形式的な承認をする。オランダの会議文化はその逆だ。根回しはあまりなく、会議の場で初めて議題を聞き、その場で意見を言い、議論する。
だから「議題を全員が事前に知っていること」が会議の前提条件になる。そのための準備会議が必要になる。冗長に見えるが、「参加者全員がフラットに意見を言える状態を作る」という目的がある。
オーバーレッグ(overleg)という概念
オランダ語で「協議」「相談」を意味するオーバーレッグ(overleg)は、ただの打ち合わせ以上の意味を持つ。組織の中で何かを決めるとき、関係するすべての人とオーバーレッグをすることが暗黙の義務とされる。
これをスキップすると、たとえ結果が正しくても「なぜ私を飛ばしたのか」と問題になる。プロセスへの参加が結果と同等かそれ以上に重要とされる。
階層が薄い職場
オランダの職場では、部長にも「ねえ、それってどういう意味?」と気軽に聞く文化がある。上司が部下に「どう思う?」と聞き、部下が「私はこう考えます、あなたの意見は間違っていると思います」と答えることが普通だ。
日本から来た人間には最初これが「礼儀がない」に見えることがある。ただし批判されているのはアイデアであって人格ではない。議論が終わった後は何事もなかったかのようにランチに行く、という感覚がある。
決定が遅い、変更も遅い
この文化の副作用として、意思決定に時間がかかる点がある。全員が合意するまで動かない。「多数決で決めよう」という場面も少ない。全員ではないにせよ、「明らかに反対の人が残らない状態」まで議論を続けることが多い。
外資系では「日本の本社はなぜこんなに早く決める?」という驚きがある一方、「オランダのチームはなぜこんなに時間がかかる?」という摩擦も生じる。
一方で、決まったら動きが早い
時間をかけて全員が合意した後は、実行が速い。だれも「聞いていなかった」「反対だった」と言わないため、実行フェーズで余計な抵抗が起きにくい。日本の根回しが「実行の障害を事前に除く」のと同じ効果を、別の方法で実現している。
オランダの会議文化に慣れた日本人の多くが言うのは「最初は非効率に感じたが、決まったことがきちんと実行される安心感は高い」ということだ。
オーバーレッグはコストだが、そのコストが後の実行スピードへの投資として機能する。その設計思想が、会議の多いオランダ職場を支えている。