アヤックスとフェイエノールトの因縁|サッカーが映すオランダの階級意識
アムステルダムのアヤックスとロッテルダムのフェイエノールト。両クラブの対立は単なるスポーツの話ではなく、労働者都市と商業都市の階級感情が根底にある。
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オランダのサッカーリーグ、エールディヴィジ。世界的に見れば中堅リーグだが、国内での熱量は凄まじい。中でもアヤックス対フェイエノールトの試合、通称「デ・クラシケル(De Klassieker)」は、警察が数百人単位で動員される「国家的事件」だ。
2024年のデ・クラシケルでは、アウェイサポーターの入場が全面禁止された。それでも試合周辺でトラブルが起きる。
商業の街 vs 労働者の街
アムステルダムは金融・文化・観光の中心地。フェイエノールトの本拠地ロッテルダムは、ヨーロッパ最大の港を持つ労働者の街だ。
この対比がサッカーの対立に投影されている。アヤックスは「エリート」「気取り」、フェイエノールトは「庶民」「泥臭い」。実際の選手やサポーターの経済状況とは関係なく、この「物語」が両クラブのアイデンティティになっている。
ロッテルダムは第二次大戦でドイツ軍の空爆により市街地が壊滅した。戦後、港湾労働者が街を再建した。「何もないところから自力で立ち上がった」という自負が、フェイエノールトサポーターの精神的支柱だ。
ユダヤ人差別の影
アヤックスはアムステルダム東部のユダヤ人街から発展したクラブとして知られ、サポーターは自らを「ユーデン(Joden、ユダヤ人)」と呼ぶ。ユダヤ系住民とクラブの歴史的なつながりに誇りを持っているからだ。
問題は、対戦相手のサポーターがこれを侮辱に使うことだ。反ユダヤ的なチャントが試合中に飛ぶことがあり、2020年代に入っても完全にはなくなっていない。KNVBはこれをヘイトスピーチとして処罰対象にしているが、スタジアムの匿名性の中で根絶するのは難しい。
フーリガン対策の現在地
オランダでは1990年代にフーリガンの暴力事件が相次ぎ、政府は厳格な対策に舵を切った。スタジアムへの入場禁止命令(stadionverbod)、フーリガンデータベースへの登録、試合日の移動制限。
現在、エールディヴィジのスタジアムは全席指定・IDチェック制が標準で、イングランドと並ぶ厳しさだ。しかし暴力は完全には消えず、2023年にはフェイエノールトサポーターがローマでイタリア警察と衝突する事件が起きている。
「平等な国」の階級感情
オランダは「平等な社会」を自任する国だ。polder model(合意形成型の意思決定)や、上下関係の薄いフラットな組織文化がその象徴として語られる。
しかしサッカースタジアムには、その表面の下にある階級感情が剥き出しで現れる。アムステルダムの知識層とロッテルダムの労働者。北部の農村と南部のカトリック文化圏。オランダ社会に「階級がない」のではなく、「階級を語ることがタブー」なだけだという見方もある。
デ・クラシケルは年に2回、そのタブーが解除される日だ。