ハウスボート(Woonboot)で暮らす——アムステルダムの水上住宅という選択肢
アムステルダムの運河には約2,500艘のハウスボートが浮かぶ。水上住宅の歴史、購入費用、住み心地、法規制をまとめた。
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アムステルダムの住宅価格は1㎡あたり7,000〜10,000EUR(112万〜160万円)が相場だ。50㎡のアパートで350,000〜500,000EUR(5,600万〜8,000万円)。この価格を見て、運河に浮かんでいる船に住むことを考える人が出てくるのは自然な流れだ。
アムステルダムには約2,500艘のハウスボート(woonboot)が浮かんでいる。これは「趣味で船に住んでいる」のではなく、市が正式に居住用として認可した水上住宅だ。
なぜ船に住むのか
ハウスボートの歴史は第二次世界大戦後の住宅不足に遡る。戦後の人口増加に住宅建設が追いつかず、余った運搬船(はしけ)を住居に転用したのが始まりだ。1960〜70年代にはヒッピー文化と結びつき、自由な住まい方の象徴になった。
現在は法規制が厳しくなり、新規の係留許可(ligplaatsvergunning)はほぼ出ない。既存のハウスボートを購入するしかないため、「船を買う」というよりは「係留権付きの住居を買う」という感覚に近い。
費用の実態
ハウスボートの価格帯は幅広い。古い鉄製のはしけを改装したものは150,000〜300,000EUR(2,400万〜4,800万円)程度から。新築のモダンなフローティングハウスは500,000〜1,000,000EUR(8,000万〜1億6,000万円)を超えるものもある。
購入費用に加えて以下のランニングコストがかかる。
| 項目 | 年間費用の目安 |
|---|---|
| 係留料(ligplaatsgeld) | 1,000〜3,000EUR(16万〜48万円) |
| 固定資産税(OZB) | 物件評価額に基づく |
| 保険 | 500〜1,500EUR(8万〜24万円) |
| メンテナンス(船底塗装等) | 2,000〜5,000EUR(32万〜80万円) |
メンテナンスは陸上の住宅より手間がかかる。鉄製の船体は5〜7年ごとにドック入りして船底の塗り直しが必要で、1回3,000〜5,000EUR程度かかる。水漏れ、湿気、結露との戦いも日常だ。
住み心地
ハウスボートの中は想像以上に「普通の家」だ。キッチン、バスルーム、寝室、リビング——間取りは陸上の住宅と大差ない。天井が低めの船もあるが、最近のフローティングハウスは天井高2.4m以上を確保しているものが多い。
水の上ならではの体験もある。窓の外を白鳥やカモが泳いでいく。運河の水面が陽光を反射して天井に揺らめく光が映る。春には花見(チューリップではないが)をしながら船の上でコーヒーを飲む。
一方で、波による揺れはある。大型の観光船が通ると波が立ち、船内のものが揺れる。船酔いする人には向かない。冬場は運河が結氷することもあり、水道管の凍結リスクがある。
法規制
アムステルダム市は係留許可を厳格に管理している。新規の許可はほぼ発行されず、既存の許可が不動産のように売買される。許可のない場所に船を係留すると撤去命令が出る。
ハウスボートにも建築基準が適用される。増築や大規模改修には市の許可が必要で、環境規制(排水処理、汚染防止)も遵守しなければならない。「船だから自由にできる」わけではない。
住居としての登録(woonadres)がされていれば、住民登録もできるし、住宅ローン(hypotheek)も組める。ただし、通常の住宅ローンより金利が0.5〜1%高い傾向がある。銀行から見れば「沈むリスクのある不動産」なので、この上乗せは合理的ではある。
誰が住んでいるのか
かつてはボヘミアンやアーティストの住まいだったが、現在は高騰する都市住宅の代替として会社員や家族連れも住んでいる。特にアムステルダム中心部では陸上の住宅より安い場合があり、「運河沿いの一等地に住める」というメリットもある。
ただし、ハウスボートは万人向けの住居ではない。メンテナンスが好きで、多少の不便を楽しめるタイプでないと長続きしない。「水の上に住んでいる」という事実は、暮らしの中で毎日意識される。良くも悪くも。