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アムステルダムで家を借りるのに14年待つ|オランダ住宅危機の構造

アムステルダムの社会住宅の平均待機期間は約14年。オランダの住宅不足はなぜここまで深刻化したのか。待機システム、自由市場との断絶、解決策の行方を追う。

2026-05-21
オランダ住宅アムステルダム社会住宅住宅危機

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アムステルダムの社会住宅(sociale huurwoning)を借りるための平均待機期間は約14年。2012年には6年だった。10年で2倍以上に伸びている。

14年。大学入学と同時に登録しても、30代前半になるまで順番が回ってこない。生物学的に考えると、人間のキャリアで最も住居が必要な時期をまるごとカバーしてしまう待ち時間だ。

二重構造の住宅市場

オランダの賃貸市場は「社会住宅」と「自由市場(vrije sector)」の二重構造になっている。

社会住宅は政府が規制する低家賃住宅で、月額€879.66(約140,700円、2025年基準)以下。住宅法人(woningcorporatie)が管理する。家賃は収入に応じて補助(huurtoeslag)が出るため、実質負担はさらに低くなる。

自由市場は規制がほぼない。アムステルダムの1LDKで月€1,500〜€2,500(約240,000〜400,000円)は当たり前。東京23区の家賃が安く感じるレベルだ。

問題は、この2つの間に「中間」がほとんどないこと。社会住宅に入れない、しかし自由市場は高すぎる——この層が増え続けている。

なぜ住宅が足りないのか

複数の要因が絡み合っている。

新規建設の遅れ: 窒素排出規制(stikstofcrisis)により、建設許可の取得が困難になった。環境保護と住宅供給が衝突している。

社会住宅の売却: 2010年代に住宅法人が社会住宅を民間に売却し、ストックが減少した。EU規制による財務圧力が背景にある。

人口増加: 移民と留学生の増加で需要が拡大。アムステルダムの人口は2000年から約15万人増えた。

Airbnb効果: 観光客向けの短期賃貸が住宅ストックを吸い上げた。アムステルダム市は規制を強化したが、効果は限定的。

外国人にとっての現実

外国人が社会住宅に入ることは現実的ではない。14年の待機リストにゼロから並ぶことになるため、実質的に自由市場一択。

自由市場での部屋探しも過酷だ。内覧に20〜30人が殺到し、即日で決まる。必要書類は雇用契約書、給与明細3ヶ月分、前住所の大家からの推薦状。年収が家賃の3〜4倍であることが求められる。

解決の兆しはあるか

オランダ政府は2024年に「Wet betaalbare huur(手頃な家賃法)」を導入し、自由市場の家賃にも規制をかけ始めた。ポイントシステム(woningwaarderingsstelsel)の適用範囲を拡大し、月€1,100(約176,000円)程度までの物件を規制対象に含めた。

大家側からは強い反発がある。規制で利回りが下がるなら物件を売却する、という動きも出ている。規制が住宅供給をさらに減らすという逆説が生じかねない。

住宅問題は、オランダの「良い部分」——高福祉、平等主義、環境規制——の裏面でもある。すべてを同時に実現する方程式を、まだ誰も見つけていない。

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