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ライデン——人口12万人の町が世界トップ100大学を持つ理由

オランダ最古の大学がある人口12万人の町ライデン。1575年の創設からの歴史と、この小さな町が学術都市であり続ける仕組みを読み解く。

2026-05-24
オランダライデン大学学術歴史

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ライデン大学(Universiteit Leiden)は1575年創立。オランダ最古の大学であり、QS世界大学ランキングでは常にトップ100圏内に入る。

この大学がある町の人口は約12万人。東京の目黒区と同程度だ。

スペインへの抵抗から生まれた大学

ライデン大学の創設は、戦争と飢餓の直後だった。1574年、スペイン帝国の包囲からライデン市民が解放された。オラニエ公ウィレム1世が、この抵抗への褒賞として市民に選択肢を与えた。「税の免除」か「大学の設立」か。

市民は大学を選んだ。

この選択がどこまで史実でどこまで伝説かは議論があるが、「実利より知を選んだ町」というナラティブは、ライデンのアイデンティティの核になっている。

町と大学が融合する構造

ライデンには独立したキャンパスがない。大学の建物は旧市街の運河沿いに点在しており、教室の隣がカフェ、図書館の裏手が住宅地だ。町そのものがキャンパスになっている。

この構造は意図的なものというより、450年の歴史の中で町と大学が有機的に融合した結果だ。学生数は約3万5,000人。人口12万人の町で、住民の4人に1人以上が学生という比率。

町の経済も大学に依存している。飲食店、書店、不動産、自転車修理——学生がいなくなればこれらのビジネスは成り立たない。

シーボルトと日本の接点

ライデンと日本の関係は意外に深い。19世紀初頭に長崎・出島で医師として活動したフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトは、ライデン大学出身。彼が日本から持ち帰った膨大なコレクションは、現在もライデンの国立民族学博物館(Rijksmuseum Volkenkunde)に収蔵されている。

日本研究の分野では、ライデン大学は欧州で最も長い歴史を持つ。日本語の講座が19世紀から存在し、現在も日本学(Japanologie)の修士課程が開設されている。

小さいことの強み

ライデンの町を歩くと、「大学都市」の意味がアムステルダムとは違うことに気づく。アムステルダム大学は大都市の中の一機関だが、ライデン大学は町そのものの存在理由だ。

人口規模が小さいからこそ、大学と町の結びつきが密になる。教授と市長が同じカフェでコーヒーを飲み、学生の自転車が路地を埋め尽くし、学術イベントが町の主要な文化活動になる。

スケールの大きさではなく、密度の高さで学術的な環境を維持する——これがライデンの450年の戦略であり、「小国オランダ」の知的インフラのモデルでもある。

アムステルダムから電車で35分。日帰りで訪れる人が多いが、運河沿いに座って学生たちの自転車を眺めていると、この町が「税金免除」ではなく「大学」を選んだ気分が少しわかる。

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