深夜2時に頭痛薬が買えない国——オランダの薬局・医療制度の独特な構造
オランダではドラッグストアで頭痛薬は買えますが、風邪薬は処方箋が必要です。家庭医(Huisarts)を必ず経由するゲートキーパー制度と、日本人が戸惑う薬局(Apotheek)の仕組みを解説します。
この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。
来蘭したばかりの日本人が最初に混乱するのは、「コンビニで薬が買えない」ことではありません。「ドラッグストアに行っても、欲しい薬が売っていない」ことです。
日本では当たり前のように手に入る総合感冒薬、抗生物質入りの軟膏、胃腸薬の多く——これらはオランダでは処方箋(Recept)がなければ買えません。
ドラッグストアと薬局の違い
オランダには「Drogist(ドロヒスト)」と「Apotheek(アポテーク)」の2種類の店があります。
| Drogist | Apotheek | |
|---|---|---|
| 位置づけ | ドラッグストア | 調剤薬局 |
| 代表チェーン | Kruidvat、Etos | 各地域の独立薬局 |
| 買えるもの | パラセタモール(日本でのカロナール相当)、ビタミン剤、スキンケア、日用品 | 処方箋薬全般 |
| 処方箋 | 不要 | 必要 |
| 営業時間 | 長い(土日も営業) | 平日17時〜18時まで。土日は閉まることが多い |
つまり、Kruidvatでパラセタモール(解熱鎮痛剤)は買えますが、日本の総合感冒薬のようなものは手に入りません。「熱と鼻水と咳を一度に抑えたい」という場合、家庭医の診察を受けて処方箋をもらう必要があります。
Huisarts(家庭医)を避けて通れない
オランダの医療制度はゲートキーパー制。すべての住民が1人のHuisarts(家庭医)に登録し、専門医にかかるにはHuisartsの紹介状(Verwijzing)が必須です。
日本のように「胃が痛いから消化器内科に直接行く」はできません。まずHuisartsに電話し、受付のAssistente(助手)に症状を説明し、緊急度に応じて当日〜数日後の予約を取ります。
Huisartsの診察は基本保険(Basisverzekering)でカバーされるため自己負担なし。ただし、薬代は自己負担額(Eigen risico、2026年は385EUR / 約61,600円)に算入されます。年間385EURまでは自己負担、それを超えた分は保険がカバーする仕組みです。
日本人が戸惑うポイント
1.「様子を見ましょう」が多い
Huisartsは軽症に対して薬を出さない傾向があります。「パラセタモールを飲んで休んでください」が定番の回答。日本の医師のように「念のため抗生物質も出しておきますね」とはなりません。
オランダの医療哲学は「必要最小限の介入」。過剰投薬を避けることは医療費抑制と薬剤耐性菌対策の両面で合理的ですが、日本の「とりあえず薬をもらえる安心感」に慣れた身には物足りない。
2. 夜間・休日の受診
Huisartsは平日の日中しか診療していません。夜間・休日は「Huisartsenpost(家庭医の時間外診療所)」に電話で相談します。ここでも電話トリアージが行われ、緊急度が低いと判断されれば「明日Huisartsに行ってください」と言われます。
本当に緊急の場合は112(ヨーロッパ共通の緊急電話番号)。救急車(Ambulance)は無料です。
3. 薬局の営業時間
Apotheekは平日17〜18時に閉まります。夜間に処方薬が必要な場合は「Dienstapotheek(夜間薬局)」を利用しますが、数は限られていて、アムステルダムでも数カ所しかありません。営業時間外の薬局は、地域の当番制で運営されています。
健康保険と市販薬の持ち込み
オランダでは全住民に健康保険(Zorgverzekering)への加入が義務付けられています。基本保険(Basisverzekering)は全保険会社で内容が同一で、月額約130〜170EUR(約20,800〜27,200円)。自己負担額(Eigen risico)は年間385EUR。歯科(18歳以上)等は追加保険(任意)でカバー。保険料は毎年1月に更新されるので、11月頃にIndepender等で比較するのが通例です。
日本からの市販薬の持ち込みは合法ですが、コデイン含有薬は要注意。英語の薬品名リストを用意しておくと安心です。一時帰国時にロキソニン、太田胃散、正露丸をまとめ買いするのは在蘭日本人の定番です。