オリボーレンと年末——オランダの正月は爆竹と揚げドーナツで始まる
オランダの年末年始は日本とは全く違う。オリボーレン(揚げドーナツ)を食べ、大量の花火と爆竹で新年を迎えるオランダの風物詩とその社会的背景。
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12月31日の夕方、オランダの街は戦場のような音に包まれる。爆竹が路上で炸裂し、花火が至る所から打ち上がる。日本の除夜の鐘とは対極にある年越しの光景だ。そしてその騒音の中で、オランダ人は油まみれの揚げドーナツをもりもり食べている。
オリボーレン(Oliebollen)——年末限定の揚げ物
オリボーレンは直訳すると「油の玉」。小麦粉の生地にレーズンやリンゴを混ぜ込み、丸く揚げた菓子だ。粉砂糖をたっぷりかけて食べる。見た目はサーターアンダギーに近い。
10月頃から街中にOliebollenの屋台(kraam)が立ち始め、12月31日にピークを迎える。1個€1.50〜3(約240〜480円)。スーパーでも袋入りが売られるが、屋台の揚げたてが圧倒的に支持されている。
オランダ人は年末にオリボーレンを食べることに対して、驚くほど真剣だ。毎年テレビや新聞で「今年最も美味しいオリボーレン屋台ランキング」が発表され、有名店には行列ができる。年間消費量は推定6,000万〜7,000万個とも言われる。人口約1,800万人の国で、1人あたり3〜4個食べている計算になる。
年越し花火——自由と混沌のはざま
オランダの年越し花火は、日本人が想像する打ち上げ花火とは次元が違う。市民が自分で購入した花火を路上で打ち上げる。組織的なイベントではなく、個人が勝手にやる。
12月の最終3日間だけ花火の販売が許可され、12月31日18時から1月1日2時まで使用が許される。この短い時間帯に、国全体で推定€70,000,000(約112億円)分の花火が消費されるとされる。
問題も多い。毎年数百人が花火による負傷で救急搬送され、指の切断や失明の事例もある。ペットのパニック、火災、大気汚染も深刻だ。ロッテルダムやアムステルダムの一部では花火禁止区域(vuurwerkvrije zone)が設定されており、全面禁止を求める世論も年々強まっている。
アッペルフラッペン(Appelflappen)も忘れてはいけない
オリボーレンほど有名ではないが、年末のもう一つの定番がアッペルフラッペン。リンゴを三角形のパイ生地で包んで揚げたもので、こちらも粉砂糖をかける。オリボーレンが重いと感じたらこちらを選ぶ人もいる。
日本人の年末年始
オランダ在住の日本人にとって、年末年始は文化的な孤独を感じやすい時期でもある。日本の正月は静かで厳かだが、オランダは騒がしくて混沌としている。おせちもないし、初詣もない。
一方で、12月25日のクリスマスはオランダでは家族と過ごす日で、年末年始は友人とパーティをする雰囲気が強い。日本の正月が「家族の行事」なのに対して、オランダの年越しは「友人の行事」という位置づけが近い。
爆竹の音が苦手な人にはつらい夜だが、オリボーレンを頬張りながら花火を眺めるオランダの年越しには、日本にはない開放感がある。静かな正月と騒がしい正月、どちらが良いかは好みの問題だ。