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フレヴォランド——1960年代に海底から生まれた州に住む人々

オランダのフレヴォランド州は、かつてゾイデル海だった場所を干拓して作られた。1986年に正式に州となった世界最新の人工大地に暮らす約43万人の日常。

2026-05-24
オランダフレヴォランド干拓ゾイデル海国土

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オランダの12州の中で最も新しいフレヴォランド州(Flevoland)は、1986年に正式に州として設立された。この土地は、60年前まで海の底だった。

州都レリスタット(Lelystad)の海抜はマイナス5m。つまり、堤防がなければ水没する。約43万人が、人間が海から奪い取った土地の上で日常生活を営んでいる。

ゾイデル海の消滅

フレヴォランドの歴史は、1932年のアフスライトダイク(Afsluitdijk)完成から始まる。全長32kmの締め切り堤防がゾイデル海(Zuiderzee)を北海から切り離し、内海をアイセル湖(IJsselmeer)に変えた。

そこから段階的に干拓が行われた。北東ポルダー(1942年完成)、東フレヴォランド(1957年完成)、南フレヴォランド(1968年完成)。海水を排水し、塩分を洗い流し、土壌を整備し、道路を敷き、入植者を募集する。

完成した土地の合計面積は約1,400km2。東京都の約半分の面積を、人間が海から作り出した。

計画都市という人工性

フレヴォランドの都市は全てゼロから設計された。レリスタットもアルメレ(Almere)も、歴史的な旧市街が存在しない。道路は碁盤目状に配置され、住宅地と商業地が明確にゾーニングされている。

アルメレはフレヴォランド最大の都市で、人口約22万人。1976年に最初の住民が移住した。50年足らずでオランダ第7位の都市に成長した。成長の理由はシンプルで、アムステルダムに電車で25分という立地と、アムステルダムの住宅価格高騰だ。

アムステルダムの1ベッドルームの平均家賃がEUR1,600〜2,000(約25万6,000〜32万円)なのに対し、アルメレではEUR900〜1,200(約14万4,000〜19万2,000円)程度。この価格差が、毎年数千人の移住者をフレヴォランドに引き寄せている。

「根っこがない」という感覚

フレヴォランドに住む人々に共通するのは、「ここには歴史がない」という自覚だ。他の州には何世紀も前の教会や運河があるが、フレヴォランドの最古の建造物は70年前のものだ。

この「根っこのなさ」は、住民にとって寂しさでもあり自由でもある。伝統に縛られない分、新しい試みに対する抵抗が少ない。フレヴォランドは風力発電の実験場として大量の風車が立ち並び、新しい農法や都市設計の実験も積極的に行われている。

海面下の日常

フレヴォランドに住んで最初に気づくのは、風だ。周囲に高い建物も丘もないため、風を遮るものがない。自転車通勤は向かい風との戦いになる。

もう一つは、地平線の広さ。オランダ全体が平坦だが、フレヴォランドは特に平坦で、遮蔽物が少ない。天気が遠くから近づいてくるのが見える。雨雲が水平線から迫ってくる光景は、この土地ならではの体験だ。

堤防の向こうに水面が見える場所もある。自分が立っている地面より水面の方が高い。この光景に慣れるまでに、しばらく時間がかかる。

「神は世界を作ったが、オランダはオランダ人が作った」という古い言い回しがあるが、フレヴォランドはその言葉が文字通り当てはまる唯一の場所だ。

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