スキポール空港とKLM——小国がヨーロッパの航空ハブになれた構造
オランダの人口は1,770万人。しかしスキポール空港はヨーロッパ第3位の旅客数を誇る。小国がハブ空港を維持できる地理的・制度的構造を解説。
この記事の日本円換算は、1EUR≒160円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。
オランダの人口は約1,770万人で、東京都の1.3倍程度だ。その国の空港が、年間旅客数でヨーロッパ第3位(2023年、約6,190万人)。ロンドン・ヒースロー、イスタンブール空港に次ぐ規模で、パリ・シャルル・ド・ゴール空港に肉薄する。人口比で考えると、この数字は異常に大きい。
地理が作った優位
スキポール空港の強みは地理にある。アムステルダムを中心に半径500km以内にロンドン、パリ、ブリュッセル、フランクフルト、コペンハーゲンが入る。ヨーロッパの主要経済圏をほぼカバーするポジションだ。
さらに、スキポールは海面下約3メートルに位置する。かつてはハーレム湖の底だった場所だ。平坦な低地は滑走路の建設に向いており、6本の滑走路が東西南北に配置されている。風向きに応じて使い分けることで、悪天候時の欠航率を低く抑えている。
KLM——世界最古の航空会社
KLM(Koninklijke Luchtvaart Maatschappij、王立航空会社)は1919年設立で、現在も同じ名前で運航を続けている世界最古の航空会社だ。設立当初から「オランダは小さい国だから、外に出るしかない」という発想で国際路線を拡大してきた。
1930年代にはアムステルダムからインドネシア(当時のオランダ領東インド)への定期便を運航していた。植民地とのネットワークがKLMの国際化を加速させた。現在はエールフランスとの持株会社エールフランス-KLMグループとして運営されているが、KLMブランドと本社はアムステルダムに残っている。
ハブ戦略の構造
スキポールとKLMの関係は「空港が航空会社を支え、航空会社が空港を支える」相互依存構造だ。
KLMとスカイチーム加盟社の乗り継ぎ便がスキポールの旅客数の約3分の1を占める。アフリカ行き、中東行き、北米行きの乗り継ぎ拠点としてスキポールを使う旅客が多い。つまり、オランダに用がなくてもスキポールを通過する人が大量にいる。
このハブ機能を維持するため、スキポールは乗り継ぎの効率を極限まで高めている。ターミナルが1つに集約されており、到着から乗り継ぎ便の搭乗口まで40分以内で移動できる設計だ。ヒースローやシャルル・ド・ゴールがターミナル間移動に時間がかかるのとは対照的だ。
スキポールの限界
ハブ空港としての成功は、同時に問題も生んでいる。
騒音問題が深刻だ。スキポール周辺の住民は年間50万回以上の離着陸(2019年時点)にさらされており、2023年にオランダ政府は年間の発着回数を44万回に制限する方針を発表した。航空業界とオランダ政府の間で激しい綱引きが続いている。
環境規制の強化もある。EUのFit for 55政策(2030年までに温室効果ガスを55%削減)のもと、短距離路線の鉄道への転換が議論されている。アムステルダム-ブリュッセル間(約2時間)やアムステルダム-パリ間(約3時間15分)は、すでに鉄道が航空の代替手段として機能し始めている。
在住者にとってのスキポール
日本からのアクセスでは、KLMが成田・関西からアムステルダムへの直行便を運航している。所要時間は約11〜12時間。
在住者にとっては、スキポールの利便性はオランダ生活の大きなメリットだ。ヨーロッパ内の移動がLCC(ライアンエアー、イージージェット等はアイントホーフェン空港発着が多い)も含めて選択肢が広い。週末にバルセロナやリスボンへ往復50〜100EUR(8,000〜16,000円)で飛べる環境は、島国の日本から来ると新鮮だ。
空港内にはRijksmuseum(国立美術館)の分館があり、搭乗待ちの時間にレンブラントの絵を見ることができる。無料。小国が航空ハブを維持するために「空港体験」を磨き上げている一例だ。