シンタクラースとオランダの12月:子どもたちが本気で信じる聖人の話
オランダではサンタクロースより「シンタクラース」が主役。12月5日の夜、子どもたちは本気で白馬の聖人を待つ。この伝統がどのように生活に組み込まれているかを紹介する。
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11月中旬、アムステルダムのセントラル駅や各地の港にシンタクラース(Sinterklaas)が船でやってくる。白いひげ、赤い司教服、白馬に乗った老人。テレビで生中継され、沿道に数万人の子どもたちが手を振る。
これはクリスマスの話ではない。オランダ独自の「シンタクラースの夜(Sinterklaasavond)」は12月5日で、クリスマスより子どもたちにとって重大なイベントだ。
シンタクラースとは誰か
シンタクラースのモデルは4世紀の実在の聖人、ニコラウス(Nikolaas)だ。子どもや船乗りを守護する聖人として信仰された。オランダではこの聖人が毎年スペインから船でやってきて、12月5日の夜に良い子にプレゼントを届けるという伝説が伝わっている。
スペインから来るという設定はオランダ独自で、その起源は諸説あって歴史的に不明確だが、少なくとも19世紀には現在の形に近い行事として定着していた(推定)。
ペプルノーテンとサプライズ
11月から12月にかけて、スーパーやパン屋にはペプルノーテン(pepernoten、スパイス入り小さなクッキー)が山積みされる。これをシンタクラースが子どもたちに配るという設定で、実際に家の中でばらまく遊びをする家庭もある。
12月5日のシンタクラースの夜は、家族でギフト交換をするが、普通のプレゼントとは違う。「サプライズ(Surprise)」と呼ばれる、贈り物を手作りで包む遊びがある。例えばサッカーが好きな人のために手作りのゴールに本を隠す、といった凝った演出をする。子どもだけでなく大人も楽しむ。
クリスマスとの役割分担
オランダでは、12月5日がシンタクラース、12月25〜26日がクリスマスと、2つの行事が並存する。子どもへのメインプレゼントはシンタクラースで、クリスマスは家族でゆっくり食事をする大人の祝日という色合いが強い。
外国からオランダに来た人は「なぜクリスマスより前にプレゼントの日があるのか」と驚くが、これはサンタクロースとシンタクラースが別々に輸入・定着した結果だ。サンタクロースというキャラクター自体がシンタクラースを英語圏が変形したものなので、オランダ的には「本家が先にある」という認識になる。
「本当にいるのか」問題
オランダでは一定年齢になるまで、子どもはシンタクラースを本気で信じている。親はその信念を壊さないように細心の注意を払う。「いつ子どもに真実を話すか」は家庭によって異なるが、だいたい8〜10歳頃が境目という印象がある(推定)。
真実を知った子どもが弟妹にバラさないよう「秘密を共有するクラブ」に入るような感覚でコミュニティが機能しているとも言われる。
在住日本人の子どもには
オランダに赴任してきた子どもは、現地の幼稚園や小学校でシンタクラース文化に直面する。クラスメートが当然の前提として話すこの文化についていけるかが、最初の社会的試練になることもある。逆に「日本にはお正月があって……」と話すきっかけにもなる。
12月のオランダは、シンタクラースの存在一つで子どもの目線が変わる。大人が設計した「信じることの世界」の豊かさを、この時期のオランダはまだ手放していない。