Albert Heijnが支配するオランダの食卓|スーパーマーケットの寡占構造
オランダのスーパーマーケットシェアの約35%を占めるAlbert Heijn。なぜ1社がここまで強いのか。ドイツ系ディスカウンターの攻勢、ボーナスカード文化、食卓の変化を追う。
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オランダに着いて最初に気づくこと。どの街にもAlbert Heijn(アルバートハイン、通称AH)がある。駅前、住宅街の角、大学キャンパスの隣。青いロゴが視界から消える瞬間がない。
オランダの食品小売市場でAHのシェアは約35%。2位のJumbo(約21%)を大きく引き離している。コンビニのない国で、AH Togoがその機能を代替している。
なぜ1社が強いのか
AHの母体であるAhold Delhaize(アホルド・デレーズ)は、売上高でヨーロッパ最大級の食品小売グループ。米国のFood Lion、Stop & Shop、Giant Foodも傘下に持つ。
この巨大さが、仕入れコストの圧倒的な優位性を生む。プライベートブランド(PB)の充実度も他を圧倒していて、AH Basicからプレミアムラインまで価格帯を広くカバーしている。
ただ、AHが強い理由はコストだけではない。ボーナスカード(Bonuskaart) の存在が大きい。
ボーナスカードという行動設計
AHの店頭価格には2つある。通常価格と「Bonus価格」。ボーナスカードを持っていれば割引価格で買える。持っていなければ通常価格。
この仕組みは、消費者のデータを吸い上げる装置でもある。何を、いつ、どれだけ買ったかがすべて記録される。パーソナライズされた割引クーポンがアプリに届く。
ポイントカードの概念は日本でも馴染み深いが、オランダの場合はAH 1社がほぼ全国民の購買データを握っているという集中度が異常に高い。プライバシーに敏感なはずのオランダ人が、食品の割引のためにデータを差し出している。
ドイツからの攻勢
AHの独走に風穴を開けようとしているのが、ドイツ系ディスカウンター——LidlとAldi。どちらもAHより2〜3割安い価格帯で展開している。
オランダ人の反応は面白い。「LidlやAldiは安いけど、品揃えが限られる」「AHの方がgezellig(居心地がいい)」。スーパーの選択に「居心地」の概念を持ち込むのはオランダ的だ。
とはいえ、インフレの影響もあり、Lidlのシェアは年々伸びている。「AHでボーナス価格を確認してから、Lidlで基本食材を買う」というハイブリッド型の買い物が広がっている。
夕食文化とスーパーの関係
オランダの伝統的な夕食は「AGV」——aardappel(じゃがいも)、groente(野菜)、vlees(肉)。じゃがいも、茹で野菜、肉を1皿にまとめた質素な食事。
この食文化がスーパーの品揃えに反映されている。じゃがいもの棚は異様に長い。一方、スパイスや調味料の種類は日本やアジアのスーパーと比べると見劣りする。
ただし、移民の増加とともに状況は変わりつつある。AHの棚にもトムヤムペースト、味噌、豆板醤が並ぶようになった。オランダの食卓が変わると、スーパーの棚が変わる。その逆も然り。
スーパーマーケットは単なる買い物の場所ではない。その国の食文化、消費行動、社会構造が凝縮された空間だ。AHの店内を歩くだけで、オランダという国のかなりの部分が読み取れる。