NZのACC事故補償制度——仕事中・私生活問わず使える保険の申請方法
ニュージーランドのACC(事故補償公社)は全員が対象の事故保険。申請方法、補償内容、カバー範囲、よくあるトラブルと対処法を在住者向けに解説。
この記事の日本円換算は、1NZD≒92円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨(NZD)の金額を基準にしてください。
仕事中にハシゴから落ちて骨折した。休日にサッカーをしていて膝の靭帯を損傷した。どちらのケースでも、NZではACC(Accident Compensation Corporation、事故補償公社)が医療費と休業補償をカバーする。加害者がいるかどうかは関係ない。本人の過失でも適用される。
日本には「労災保険」と「自賠責保険」と「傷害保険」があるが、NZではACCがこれらを1本にまとめている。そして、その代わりに怪我に関する民事訴訟の権利が制限されている。「訴える代わりに補償する」仕組みだ。
ACCの申請手順
Step 1: GPまたは医療機関を受診する
怪我をしたら、まずGP(かかりつけ医)、After Hoursクリニック、または病院を受診する。医師がACC45フォーム(事故報告書)を作成し、ACCに送信する。患者が自分でACCに電話して申請する必要はない。
Step 2: ACC番号を受け取る
申請が受理されると、ACCからクレーム番号が発行される。この番号は今後の治療・リハビリ・補償の全てに紐づくので、記録しておく。
Step 3: 治療・リハビリ
ACCが認めた治療(理学療法、手術、投薬等)は自己負担が大幅に軽減される。GP受診のACCカバー分は、通常の診察費NZD 50〜70のうちNZD 20〜30程度の窓口負担で済む(残りをACCが支払う)。
Step 4: 休業補償の申請
怪我で働けない場合、雇用主を通じてACCに休業補償(Weekly Compensation)を申請する。受傷前の収入の80%が、最初の1週間は雇用主から、2週目以降はACCから支給される。
何がカバーされて、何がカバーされないか
| カバーされる | カバーされない |
|---|---|
| 骨折・捻挫・切り傷等の外傷 | 風邪・インフルエンザ等の疾病 |
| スポーツ中の怪我 | がん・心臓病等の病気 |
| 交通事故の怪我 | 精神疾患(外傷後ストレスを除く) |
| 仕事中の怪我・職業病 | 加齢による身体の衰え |
| 性的暴力による怪我 | 歯科(事故による損傷は対象) |
カバーされない疾病の治療費は、公的医療制度(永住者・市民権保持者は無料〜低額)または民間保険でカバーする必要がある。
よくあるトラブルと対処法
申請が却下された場合: ACCの決定に不服がある場合、60日以内にレビュー(review)を申請できる。レビューは独立したレビュアーが担当する。レビューでも却下された場合は、District Courtに上訴できる。
「徐々に悪化した」ケース: 腱鞘炎やストレス性骨折など、明確な事故ではなく徐々に悪化したケースは「gradual process injury」としてACCの対象になる可能性がある。ただし、特定の日時・場所で怪我をしたケースより承認率が低い。医師に経緯を詳しく伝えて、ACCフォームに「仕事に起因する」と明記してもらうのが有効だ。
既往症の扱い: 既往症が事故によって悪化した場合は、悪化分がACCの対象になる。「元から悪かった膝を転倒でさらに損傷した」ケースでは、転倒による悪化分のリハビリがカバーされる。
自営業者・フリーランスの注意点
自営業者はACCのレビー(課徴金)を自分で支払う必要がある。これは確定申告(IRDへのtax return)の際に計算され、年間の課税所得に基づいて請求される。
自営業者の休業補償は、登録している所得レベルに基づく。実際の収入より低い額で登録していた場合、休業補償も低くなる。ACCのCoverPlusプランでは、自分で補償額の上限を選べるが、掛金も上がる。
外国人も対象になる
ワーキングホリデー、学生ビザ、観光ビザ——ビザの種類に関係なく、NZ国内で怪我をすれば全員がACCの対象だ。旅行者が登山中に足を滑らせて骨折した場合も適用される。
ただし、NZを離れた後のフォローアップ治療はACCの対象外になる。帰国後に必要な治療は、自国の保険で対応する必要がある。重傷の場合は帰国前にACCのケースマネージャーと相談しておくのが望ましい。
ACCは「怪我に関しては世界で最も手厚い公的保障」と言われることがある。実際に使ってみると、その網羅性に驚く。ただし、怪我以外の病気は別の仕組みで対応する必要がある。ACCがカバーする範囲とそうでない範囲の境界を把握しておくことが、NZ生活の医療費管理の出発点だ。