果物を摘む人がいない国|ニュージーランドの季節労働者不足と農業の危機
ニュージーランドの果樹園は毎年収穫シーズンに深刻な人手不足に陥る。キウイフルーツ、リンゴ、ブドウの収穫を支える季節労働者の実態と、RSEスキームの仕組み。
この記事の日本円換算は、1NZD≒92円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(NZD)の金額を基準にしてください。
ニュージーランドのスーパーで売られているゼスプリのキウイフルーツ。1個NZD0.50〜1.00(約46〜92円)。しかしこのキウイを木から摘む作業には、毎年約2万人の季節労働者が必要だ。そしてこの2万人を確保するのが、年々難しくなっている。
収穫シーズンの構造
ニュージーランドの主要な果実収穫は南半球の夏〜秋に集中する。
- 12〜2月: チェリー(セントラル・オタゴ)、ブルーベリー
- 2〜5月: キウイフルーツ(ベイ・オブ・プレンティ)、リンゴ(ホークス・ベイ)
- 3〜5月: ブドウ(マールボロ)
この数ヶ月に労働力が集中するため、通年雇用では対応できない。かつてはワーキングホリデーのバックパッカーがこの労働力を担っていたが、ワーホリの若者が農作業を敬遠する傾向が強まっている。
RSEスキーム
2007年に導入されたRecognised Seasonal Employer(RSE)スキームは、太平洋島嶼国(サモア、トンガ、バヌアツなど)から季節労働者を招く制度だ。農場主がRSEの認定を受け、渡航費と宿泊施設を提供する条件で、最大7ヶ月の就労が認められる。
2024年のRSE枠は約19,500人。毎年拡大しており、ニュージーランドの農業にとって不可欠な存在になっている。
労働者の時給はNZD23.15〜30.00(約2,130〜2,760円)程度。出来高制(piece rate)の農場も多く、熟練した摘み手は時給換算でNZD35以上稼ぐこともある。
労働条件の問題
RSEスキームは「win-win」と政府は説明するが、批判も多い。
労働者は雇用主が指定した宿舎に住む義務があり、宿泊費が給与から天引きされる。宿舎の品質が低い(過密、暖房なし、カビ)というケースが報告されている。
転職の自由もない。RSEビザは特定の雇用主に紐づいており、劣悪な労働環境でも他の農場に移れない。この構造的な問題は、労働搾取のリスクを内包している。
2023年にはHawke's Bayの農場でRSE労働者への未払い賃金が発覚し、雇用主がRSE認定を剥奪された。
ワーホリでフルーツピッキング
ワーキングホリデーでニュージーランドに来た日本人がフルーツピッキングに参加するケースもある。体力的にハードだが、短期間でまとまった資金を稼げる。
ベイ・オブ・プレンティのキウイ収穫は2〜5月、マールボロのブドウ収穫は3〜4月が繁忙期。宿泊付きのバックパッカーズ・ホステルが収穫地の近くにある。
ただし、フルーツピッキングの仕事は天候に左右される。雨の日は作業中止で収入ゼロ。1週間雨が続くこともある。安定収入を期待する仕事ではない。
自動化の可能性
キウイフルーツの収穫ロボットの開発が進んでいる。Robotics Plusなどのニュージーランド企業が、AIで果実の熟度を判定して自動で摘むロボットを開発中だ。
しかし、果実の収穫は人間の手の繊細さが求められる作業で、完全自動化にはまだ時間がかかる。少なくとも今後10年は、人間の手による収穫がニュージーランドの農業を支え続けるだろう。
スーパーのキウイ1個の背後に、太平洋を渡ってきた労働者の汗がある。その構造を知ると、果物の見え方が少し変わる。